所沢の商店街はどう変わる?「第2回所沢エリア・リノベーション推進フォーラム」で街の活性化を話し合いました。
皆さんのお住いの地域に商店街はありますか?昔は賑やかだった商店街も、時代の変化を受けてシャッター通りになってしまったり、住宅地に変わったりしていることもあります。郊外店の登場やインターネット通販の登場で生活者の消費行動が変わり、役目を終えたお店も少なくありません。時代の変化に合わせて、商店街はどう変わるべきなのか。いま生活者にとって求められる事業の形とはなにか。地域で活動するプレーヤーたちが集まって討議をする場が始まっています。
商店街の課題解決のために埼玉県の事業として始まった「NEXT 商店街プロジェクト」。その一環として、地域のキーマンたちが集まって、街の課題やあるべき商店街像を語る「所沢エリア・リノベーション推進フォーラム」が開催されました。6月に続き2回目となる今回は、所沢で活動する3組の実践者の話を聞きました。
(取材:2018年7月25日 大竹 悠介)
26歳の若者、ビアバーを起業し街に新たな風を吹き込む
まず登場したのが、株式会社パーフェクトビール代表取締役の藤沼正俊さん。藤沼さんはクラウドファンディングなどを活用して資金調達を行い、2017年2月、所沢市東町に「PERFECT BEER KITCHEN」をオープンしました。同店はH—CUBEというモダンな商業施設の2階にあり、温度管理がきっちりとされた美味しいビールと、ビールに合う料理を提供しています。
さらに今年7月にはプロペ通り沿いのビルの屋上に「PERFECT BEER GARDEN」もオープンさせた藤沼さん。なかなかやり手の起業家で、見た目も貫禄充分ですが、なんと1991年生まれの26歳とのこと。自分のプロジェクトを起こすのに年齢は関係ない、と考えさせられます。
藤沼正俊さん
そんな藤沼さんの発表は、お店が立地する「うらトコ通り」に新しく作った商店会について。「魅力あるまちづくりとは、大型施設ではなく小さな個性の集結である」と語る藤沼さんが作ろうとしているのは、「クラウドサポート型商店街」。聞きなれない言葉に「?」が頭に浮かぶ方もいらっしゃるかもしれませんが、平たくいうと、「個人会員が月会費を払って商店街の仲間になる」というモデルです。
登場人物は、「個人会員」と「加盟店」と「うらトコ通り商店会」の3者。まず、個人会員は月会費として500円を商店街に託します。商店会はその資金を使って加盟店に集客支援などサポートを提供。加盟店は個人会員に1ドリンク無料などの特典を提供するという仕組みです。まだ始まったばかりで加盟店は3店舗とのことですが、8月中に20店舗が加盟する商店会になるとのこと。藤沼さんを中心に地域の個店が連携し、「うらトコ通り」という名前でのブランディングが、今まさに始まったところです。
ママ社長、女性のプチ起業を強力バックアップ!
次に登場したのが、株式会社EMインシュランスサポート代表取締役の斎藤恵子さんと、一般社団法人SEM代表理事の門馬英樹さん。EM社は旧市街地のタワーマンション街に立地する保険代理店。関連会社としてイベント企画運営を生業とするのがSEMとのことです。
左:斎藤恵子さん・右:門馬英樹さん
斎藤さんと門馬さんが取り組むのは女性の「プチ起業」の創業支援。斎藤さん自身、出産後にベビーマッサージの資格を取得して5年ほど講師として活動されていたそうで、自身の体験をもとにママ起業家の支援をしようと思い立ったそうです。大手保険会社勤務で身につけた保険や税金関係の知識を生かして支援をしています。
具体的な活動として門馬さんと2人で取り組んでいるのが「nikoフェス」というイベントです。ハンドメイドの物作りなどをしている女性たちがマーケットを出店するイベントで、住宅展示場などの集客イベントとして実施することで、出店者からは出店料を取らないモデルが実現できているそう。
また、8月18日(土)には、所沢駅東口の長者久保公園で、いくつかの町おこし団体が集まって「ローカルフードマルシェ with nikoバル」というイベントを開催するそうです。ここでも手作り雑貨やスイーツなど、女性が小さな商いとして多数出店されます。「プチ起業に関心のある人同士の情報交換の場としても、ぜひ多くの人に参加してもらいたい」と門馬さんは話します。
ミライの団地の姿とは?首都圏の事例を紹介!
最後にプレゼンをしたのが、一般社団法人ステップ2.5推進協議会代表理事の山岡靖さん。ステップ2.5は現役世代(ステップ2)と老齢世代(ステップ3)の間をつなぐ人生のタームのこと。いざ仕事を引退して時間ができたときに、第2の人生をどう歩むべきか考えて迷う世の男性たちに、次の一歩を踏み出すきっかけを提供しようと、いくつかの企業や団体が立ち上げたコンソーシアムです。ちなみに山岡さんはUR(都市再生機構)関連会社の社員だそう。
山岡靖さん
山岡さんはNEXT商店街の対象地域でもある航空公園のUR団地を念頭に、所沢の団地の特徴を「他の団地と比べて50代の世帯主が多い」「勤務先は地元と都内が半々」と紹介。その上で、あるべき所沢の団地の姿を「地域医療福祉拠点」(Aging in Place)であると提案しました。これは、地域で暮らし安心して年齢を重ねていけるよう、大家であるURだけでなく、住民の自治会や行政、関連事業者が連携をして団地のまちづくりを進めていこうというものです。
事例として山岡さんが紹介したのが多摩NT永山団地。平成10年代に空き店舗を利用した地域活動が始まり、平成26年にURが地域医療福祉拠点化団地に指定。地域包括支援センターを商店街に誘致し、住民へのケアシステムを整えています。
山岡さんは、「団地は新しい都市型産業を育む拠点。アクティブシニアが生き生きと活動できるようなコーディネーター役を果たしていきたい」と今後の抱負を語りました。
所沢の「エリアビジョン」とは?継続検討中!
会の後半ではNEXT商店街プロジェクトの対象となる市内4地域(所沢駅周辺・航空公園駅周辺・新所沢駅周辺・和ヶ原商店街)について、エリアビジョンの検討を行いました。
まずはプロジェクトを中心となって動かす所沢ローカルファースト事業団の渋谷正則さん、和ヶ原商店街振興組合の大坂和則さん、埼玉県からNEXT商店街請負人を委任されている地域協働推進機構の藤倉潤一郎さんから、対象地域のエリアビジョンについて報告がありました。
渋谷正則さん
NEXT商店街プロジェクトは、単に集まって議論することで終わりではありません。実際に対象地域を定め、その地域の空き物件を利用して新しい事業を起こし、エリアの価値を高めるところまでを視野に入れています。その観点から、藤倉さんは3つの基本方針について説明しました。
藤倉潤一郎さん
1つ目は「広域連携の推進・回遊性の向上」。商店街の活性化を所沢・航空公園・新所沢と広いエリアでみて実現するというものです。所沢駅周辺の回遊性についてはプロペ通り・うらトコ通り・長者久保公園からグランエミオ所沢を回遊する人の流れを産んでいきます。狭山ヶ丘の和ヶ原商店街でも別途プロジェクトを推進します。
2つ目は「新たな担い手の創出」。藤沼さんのように、これからの地域を担う20代〜30代の若者が中心になって活躍できる舞台を整備するということです。
そして、3つ目が「戦略的な広報・情報発信」。エリアビジョンを定義した上で、空き物件と事業の担い手、支援者を結びつけて街に新しい事業が生まれる流れを整備していこうというものです。
大坂和則さん
エリアビジョンについて会場からは「若手支援と所沢らしさをどう結びつけるのか、うまく結びつけられるといい」「商店街そのものが面白い、楽しい空気感をどう出せるか」「外から所沢に移り住んでもらえるようなまちづくりを進めていけば、新しい場と賑わいがうまれるのではないか」などの意見が出ました。
参加者からも「所沢らしさとはなにか?」という投げかけがありましたが、ややもすると首都圏のベットタウンの一つとして「特徴のないのが特徴」(参加者談)とも言われます。そんな中で、所沢らしさをどう掘り起こしていくのか、どう作っていくのかが、これからの課題の核なのではないかと思います。
NEXT商店街プロジェクトはまだまだ始まったばかり。まずはこうやって旗を立てて、地域の人を見える化してネットワークを作っていくのが、活性化のための第一段階かもしれません。この記事を読んでご興味を持たれた読者の皆さんは、ぜひプロジェクトに参加してみてください。
近年、人口減少や高齢化、ネット通販などにより、地域の商店街を取り巻く環境は、厳しい状況です。多くの商店街で消費者や商店街会員の減少、空き店舗問題、後継者不足などの問題が生じています。しかし、商店街は、地域の買い物の場だけでなく、まちの治安や防犯、自治会活動などの機能も担う場所であることから、時代に合った商店街の在り方を考え、存続・機能させることが求められています。
そこで、埼玉県が、市町村、商工団体、商店街が三位一体となって、大胆な発想や手法を取り入れ、空き店舗問題や商業人材の育成に向き合い、にぎわい溢れる、自走可能な商店街を目指していく8地域(熊谷市、所沢市、本庄市、深谷市、越谷市、蕨市、ふじみ野市、寄居町)を対象として、集中的に支援を行っていくプロジェクトです。
「第1回所沢エリア・リノベーション推進フォーラム」のレポート記事はこちら
問い合わせ先:
非営利型まちづくり株式会社 地域協働推進機構
NEXT商店街請負人 藤倉潤一郎
j.fujikura@seedx.jp