アマビエに懐疑的だった?!角川武蔵野ミュージアム「アマビエ・プロジェクト」第三弾・川島秀明さん
アマビエ・プロジェクト第三弾!現代美術家・川島秀明さんにインタビュー
多くの人命を奪い、苦しめている、昨年からの新型コロナウイルスの流行。
そんな中で注目された“キャラクター”と言えば、幕末に熊本沖に現れ疫病について予言したと言われる謎の妖怪「アマビエ」様です。
そんなアマビエを、「現代を生きるアーティストに描いてもらおう」というのが角川武蔵野ミュージアムが企画する「アマビエ・プロジェクト~コロナ時代のアマビエ~」。
現在公開中の第三弾を手がけるのが現代美術家の川島秀明さんです。憂いを帯びた魅惑的な眼や表情を描くことで定評のあるアーティストです。
実は川島さん、当初は「アマビエ」に懐疑的で依頼に当惑したのだとか。さらには、血の気が引く思いをしながら制作に臨んだのだとか……。
今回は、川島さんが描く作品《SHI》について、川島さんが「アマビエ・プロジェクト」参加アーティストに選ばれた理由の一つ「仏道修行」のことや、コロナ禍をどう感じているのか、ざっくばらんにお伺いしました。
2021年6月取材
▲角川武蔵野ミュージアム
アマビエには懐疑的だった?!依頼を受けて当惑
――アマビエ・プロジェクトへの参加依頼を受けたときはどんな気持ちだったのでしょうか?
川島さん:
当初SNSでイラストレーターさんや絵描きの方の中で「描いてみました」みたいなのが流行りましたよね。あの流れを見ていて、自分は他人ごととして見ていたんです。
というのも、自分はお寺にいたことがあったので(20代の頃川島さんは2年間比叡山延暦寺で仏道修行をしている)おまじない的なことに対して懐疑的なところがあるというか。
「意外とみんなこういうの好きなんだな~」と思いながら見ていました。
そんなスタンスだったので、神野さん(角川武蔵野ミュージアム美術部門ディレクターの神野真吾さん)から「アマビエ・プロジェクト」の依頼を受けて非常に当惑しました。
神野さんからは「現代を生きるアーティストが江戸時代のアマビエを描いたらどうなるのか、そのイメージを見たいんです」といった“ぼんやり”した依頼を頂いて(笑)。ちょっとずるいな、と。
また、僕にお寺にいた経歴があるというのも依頼の理由のひとつだったようです。
でも普段の僕の作品に宗教的な表現はありません。
しかもアマビエに思い入れがない……。非常に「困ったなー」という感じでした。
▲現代美術家・川島秀明氏(画面中央)。所沢なび事務局からリモートで取材を行った
――なぜ、アマビエやまじない的なことに対して懐疑的だったのでしょうか?
川島さん:
仏教の中にも護摩を焚いたりとか儀式を大事にする宗派もあるんですが、僕自身は仏教を哲学的なものととらえているんです。
念じたり願掛けしたりサイキックパワーでどうこうする、そういうものとは違い、起きていることを受け手がどう受容するかというものなのではないかな、と。
そこで、作品に取り掛かるにあたっては、アマビエそのものではなく、「疫病・死」といった一般化したテーマに変換して考えるようにしました。
反抗したかった、イキがっていた10代20代
――そもそも画家であったり仏道であったり、川島さん自身はどうしてこのような道を歩んできたのでしょうか?
川島さん:
子供のころから絵が人より得意っていうのはありましたが……「まわりの優等生の子みたいに、いい学校いい会社っていうルートはカッコ悪い」みたいな気持ちもあって。自分はカウンターなんだ! と反抗してカッコつけてたので絵の道に進んだんです。
でも大学卒業した後、具体的に何を世の中に発していくのか、っていうのが自分にはなかった。
それで、次は「お坊さんとして出家したらかっこいいかな」という……。
今思えば20代はいわゆる自分探し、ほんっとにバカだったなと思います。中身がなくてハッタリしかない、とにかくイキがっていました。
――仏道修行のあと、改めて美術の道に進んだのはどうしてですか?
川島さん:
成り行きでなんとかなった感じです。こんなこと言ったら怒られるかもしれませんが、なりたくてなった、という感じはないんです。
仏道修行をやめて山を下りて、美術分野に戻ったんですけど、以前からの友達に機会を与えてもらって。運だけで生きてる、ほんっとそうです。
「アマビエ・プロジェクト」に関しても、縁あってこういう作品が生まれた、と思っています。
「アマビエ」を仏教の「四苦」に変換
――今回の作品について教えてください。
川島さん:
先ほどもお伝えしたように「アマビエそのもの」を描くということは難しいな、と。
僕自身の仏道修行の経歴を鑑みて依頼してくれたこともあり、仏教的な価値観をベースにアマビエが生まれた背景を考え、「疫病・死」といったテーマに焦点を絞りました。
お釈迦様の最初の説法、つまり「基本のき」のひとつに逃れようのない四つの苦しみというものがあるんです。
生まれてきた苦しみ、老いる苦しみ、病む苦しみ、そして死ぬ苦しみ。
生まれて年取って病気して死んで、って当たり前と言えば当たり前なんですが。
疫病や死について考える中で、たどり着いたのがこの「四苦」でした。
《SHI》川島秀明 2021
©Hideaki Kawashima
そもそも、自分の体というのは意のままになるかというとそうでもないのではないでしょうか?
生まれる場所も親も、選べない。いつ病気になるかもコントロールできない。死ぬ時期もわからない。そういうことを、人はわかっていた方がいいんではないかと思うんです。
そこで、タイトルには「四苦」の「四」、と「死」をかけて《SHI》(し)と付けました。
世の中のあり方が変わった方が良いのではと僕は思うのですが、現代では人間の万能感が出過ぎているように思います。
▲般若心経を唱え作品を収める川島さん
――コロナ禍をどう見ていますか?
川島さん:
ウイルスによって今混乱しているけど、それはありうることで、森羅万象のいち現象なんです。もちろん、人間も自然現象のひとつです。
と、言いながらも、僕もSNSなんかを見て自意識過剰になって悩んだりめそめそしたりくだらないことを繰り返しているんですが……。
本来は人間も自然現象の一部であるということを頭に入れておくといいかなと思います。
エンタメの”牙城”を前に「血の気が引いた」
――ところで角川武蔵野ミュージアムについて、どう思いましたか? 神野真吾さんはとある動画で「既存の美術館とは一線を画す、アーティストに刺激を与える場所でありたい」ということを話していました。
川島さんは角川武蔵野ミュージアムについてどう思われましたか?
川島さん:
正直、“KADOKAWA”が強過ぎて! 建物も空間演出も「さすがエンタメの牙城だな」と。
▲エンタメの牙城!©角川武蔵野ミュージアム
僕が普段身を置く美術の世界って、もっと静かで地味な空間なんです。
だからミュージアムを下見した時、血の気が引きました。
「これは負けてしまう! ここで俺に何ができるのか、何をしろと言うのか?!」と。
また、普段は人に依頼されて描くということはないため、何を求められているのかを考えながら描くことも困難のひとつでした。
作品を作るのが「苦しみ」でしたね。
神社あり、アマビエ・プロジェクトあり、のサクラタウン
今回ご紹介した、川島秀明さんの作品《SHI》を角川武蔵野ミュージアムで観ることができるのは、8月末(予定)まで。
いまなら、角川武蔵野ミュージアムのあるサクラタウンには武蔵野坐令和神社あり、仏道テーマのアマビエ・プロジェクト作品《SHI》もあり、で”ご利益”も倍?!
何を感じるかはあなた次第です。じっくりと作品やところざわサクラタウンを楽しんで下さい!
川島秀明さんの作品《SHI》は角川武蔵野ミュージアム2Fエントランスホールにて展示中
チケット不要です。詳細は、角川武蔵野ミュージアム公式サイトでご確認を。
■施設詳細
【角川武蔵野ミュージアム】
〒359-0023
住所埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3
【アクセス】JR武蔵野線「東所沢駅」から徒歩10分
▶角川武蔵野ミュージアム・公式サイト https://kadcul.com/