究極のオッさんホイホイ? 電脳秘宝館・マイコン展をマニアックな視点で紹介します!(前編)


現在ところざわサクラタウン内、角川武蔵野ミュージアムにて「電脳秘宝館・マイコン展」が開催されています(2026年4月6日まで)。
今回は、こちらの展示をおじさん記者が少しマニアックな視点で紹介していきます。

※この記事は前編、後編に分かれています。後編は明日公開です。

展示概要

今回の展示テーマの「マイコン」とは現在のパソコン、スマホのご先祖様。それまで大型で複雑な機械だったコンピュータが手のひらに乗るICチップにまで小型化された事で、マイクロコンピュータ=マイコンと呼ばれるようになりました。昭和の時代、それは単なる便利な装置ではなく、「自作」と「探求」と「遊び」の結晶、そして未来への案内人でした。この展示では時代を追って、約100点の様々なマイコン(やそれ以前の機器)が展示されています。

第1章「萌芽 – ⾃作する時代のはじまり」(1975~78年)
第2章「爆発 – ホビーパソコン⽂化の誕⽣」(1979~83年)
第3章「洗練 – 8ビットの表現⼒が拓いた世界」(1983~86年)
第4章「境界 – 16ビット化と昭和の終焉」(1986~89年)

昭和時代のコンピュータは、様々なメカが使われていたり、今からすると不思議な形をしていて見てるだけでも楽しく、「秘宝館」の名にふさわしい展示となっていますよ!

第1章 ⾃作する時代のはじまり

入り口を入ってすぐの所には学習机の上に電子基板、測定器、様々な部品が置かれています。これは当時のマイコンの制作風景です。その昔、コンピュータというのは自分で部品を集めて組み立てるものだったのです。しょっぱなからマニアックな展示内容です。

少し戻って入口で入場者をお迎えするのが Minivac6010(1962年)。コンピュータの基礎となる情報理論を作ったシャノンが考案した教育キットMinivac601の強化版だそうです。昔のSF映画に出てきそうな見た目ですね。

次に登場するのがDIGI-COMP1(1963年)。こちらはコンピュータが計算する所が「目で見て分かる」子供向けの教育用のオモチャ?です。見た目もポップで可愛らしいです。今でも再販されたら人気が出そうですね。
動作原理は今のコンピュータと同じ。なんとなくインターネット物理モデルを思い出します。

続いて HITAC10(1969年)。日立製作所製のミニコンピュータ。日本最初のミニコンピュータかつ、初の純国産ビデオゲームが開発された機種、そして製品広告で「パーソナルコンピュータ」という言葉を初めて使った機種でもあるという事です。

ミニといっても今の感覚からすると、そこそこ大きいです。どうですか、この重厚感ある内部。ちなみにこちらの部品達は電源部で、コンピュータの本体は1枚目の写真の右側です。当時のコンピュータは電気を沢山使いますから、こんな強力な電源が必要だったのでしょう。

続いては、全てのパーソナルコンピュータの歴史の始まり、マイコン界のビッグバンともいえるインテル4004(1971年)。世界初の商用マイクロプロセッサです。赤い矢印の所にあるICがそれです。開発者4人のうちの1人は日本人の嶋正利さん。「20世紀で最も重要な製品」のキャプションが眩しいです。現在発売されているほぼ全てのパソコンに、このCPUの子孫が使われています。

写真を拡大すると基板上にうねうねとした線が走っているのが見えると思いますが、これがパターンといって電気信号が通る薄い電線です。ICだけでなく、抵抗やコンデンサといった部品も並んでいます。この時代は配線が「目で追える」時代です。

ちなみにこの基板は、マイコン博物館の吉崎武館長がジャンク品の中から発見して購入したそうです。一山いくら、といったゴミ同然の中から発見してしまうとは、さすがですね。そのような経緯もあり、この基板が何に使われていたものかは残念ながら不明という事です。

続いてはS-500(1972年)。当時の服部時計店(現在のセイコー)が作った「プログラム電卓」。値段は155〜189万円。使われているのはインテル最初の8Bitマイクロプロセッサ8008で、精工舎との共同開発。初期のマイコンには日本が大いに関わっていた事が分かります。

第2章 ホビーパソコン⽂化の誕⽣

ここからが「完成品」として発売されているマイコン(パソコン)時代の始まりです。
史料も多いので、色々と省略します。

昔の秋葉原の看板群も再現されています。

この章の注目はラテカピューターPC-2000(1979年)です。
これはラジカセにテレビとコンピュータが合体した、まさに「全部入り!」の1台。

コンパクトな筐体なのにキーボードは収納可能。きちんとBASICという言語でプログラミングができ、さらに持ち運びもできます。
出荷台数200台という幻の製品。まさに「電脳秘宝館」という展示名に相応しい逸品です。まぁ、今ならスマホ1つで同じ事ができてしまいますが。

コンピュータというとデジタルっぽいですが、これはコンピュータ以外はカセットテープ、ラジオ、テレビ、すべてアナログ技術で作られています。メカメカしい操作スイッチ、アナログ式メーター、でっかいスピーカー。まさに男のロマンが結集した1台といえるでしょう。

あと1つ紹介するのはPC-8001(1979年)。3年間ほどで約25万台が販売された、当時のベストセラー機。当時のパソコンはキーボードと本体が一体型になっているものが多かったです。筆者もこれを使ってゲームなどを作っていました。よく見るとNECのロゴも、今のものと違いますね。

第3章 8ビットの表現⼒が拓いた世界

この時代は様々なアイデア満載のコンピュータが登場します。
こちらは UC-2000(1984年)、愛称は「腕コン」。キーボードは外付け。メモ帳や電話帳、住所録、スケジューラーなどを備えたスマートウォッチのご先祖様。今から約40年前にこんなコンピュータが既にあったのです。

HC-20(1982年)初期のモバイルパソコン。これも本体にディスプレイ、キーボード、記憶装置のカセットテープ、プリンタが内臓されています。重量1.6Kgで約50時間のバッテリー駆動、電話に接続して通信可能と、段々と現代に近づいてきます。重量は今のノートパソコンと同じぐらい、バッテリー駆動時間は、今の2倍ぐらいありますね。

第4章 16ビット化と昭和の終焉

もう1つモバイルパソコンをご紹介。Compaq Portable(1983年)。ポータブルという名前ですが12.7Kgとかなりの重量で、モニター内蔵。残念ながらバッテリー駆動はできません。現代のWindowsパソコンの直接のご先祖様です。

そして後編では「特集:スティーブ・ジョブズとアップルコンピュータの世界」と、ちょっと変わった「コンピュータの裏側」をご紹介します。お楽しみに!

開催概要

展覧会タイトル:電脳秘宝館
英語タイトル:Electric Wunderkammer
https://kadcul.com/event/231

会場:角川武蔵野ミュージアム4階 荒俣ワンダー秘宝館
会期:2025年7月19日(土)~2026年4月6日(月)
休館日:毎週火曜日、12月31日(水)、2026年1月1日(木)、1月19日(月)~1月23日(金)
※ただし12月30日(火)は臨時開館
開館時間:10:00~18:00(最終入館は17:30まで)
主催:角川武蔵野ミュージアム(公益財団法人 角川文化振興財団)

監修:荒俣宏
協力:マイコン博物館(一般財団法人 科学技術継承財団)
解説:遠藤諭(元『月刊アスキー』編集長、ZEN大学客員教授、同大学コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員)