「翔んで埼玉」魔夜峰央さん秘話を語る


「埼玉県人には そこらへんの草でも 食わせておけ!」

「ああ いやだ!埼玉なんて言っているだけで口が埼玉になるわ!」

「あなたが埼玉県民でもいい!あなたについて行きたい!」
「所沢へ?」

『翔んで埼玉』より引用

取材:成田知栄子


 

1.映画「翔んで埼玉」原作をスケールアップ!
豪華キャストが勢ぞろい!


©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

 

「翔んで埼玉」は、人気ギャグ漫画「パタリロ!」の著者 魔夜峰央さんが、1982年~1983年に『花とゆめ』(白泉社)1982年(昭和57年の別冊に3回に分けて連載された全3話の未完作品。凄まじい〝埼玉ディス〟が詰め込まれた問題作とされながらも30年余りの沈黙を破り2015年に復刻版(『このマンガがすごい!comics翔んで埼玉』/宝島社)として出版されやいなや累計69万部発行の大ヒットとなり再び注目を浴びました。
そして、今度は実写版として映画化。原作のストーリーにはない“埼玉VS千葉”や神奈川、群馬など関東圏一帯を巻き込んだスケールアップしたストーリーに仕上がっています。
キャストは、二階堂ふみとGACKTのダブル主演。脇を固めるのは伊勢谷友介と京本政樹などそうそうたる豪華キャストが出演します。


2.元所沢住民 魔夜峰央先生、秘話を語る


▲所沢なびのインタビューに応じる 魔夜峰央先生(東映本社にて)

いよいよ2月22日、埼玉県民待望の「翔んで埼玉」が公開されます。公開に先立ち、原作者の魔夜峰央さんにお話を伺いました。

(1)「頭で考えてできることではない」
原作者、魔夜峰央先生も一観客として楽しむ!

—映画には原作にはないシーンが加えられ、かなりスケールアップしていますが、魔夜先生のリクエストなども入っているのでしょうか?

魔夜先生:
いいえ。監督にお任せしていましたからね。武内英樹監督は、特にマンガ好きの方ではなさそうなんだけれど、「のだめカンタービレ」などアニメ作品を手掛けている監督さんなんですよね。「のだめ…」も「テルマエ・ロマエ」も観せてもらって、この監督だったらお任せしても大丈夫だと思いました。

映画も一応、原作に沿ってはいるんですが、全く別物と考えて観ていただいてもいいと思います。私が書いた原作は3本しかなく、ラストは考えていませんでしたからね。原作にないシーンは、ラストを見越しての伏線になっていますので、うまく作ってくれたと思いました。

あの展開、頭で考えてできることではないと思うんです。きっと武内監督と私の感性が似ているんですよね。ギャグの押し方とか…。だから、この作品を選んでくれたのかもしれませんね。

—「翔んで埼玉」を実写版で映画化するという話を聞いた時は驚かれましたか?

魔夜先生:
驚いたというより、「本気か?これを実写映画化だと?!」と思いました。実は、はじめはアニメの映画化の話があり、それはできるんじゃないかと思っていたんですよね。ところが、その話がいつの間にか立ち消えになってしまっていて、 できっこないと思っていた実写映画のほうが本格的になって、ついに完成した。そういういきさつに驚いています。

—埼玉県民に対する「ディスり」台詞を改めて映画で観てどう思われました?

魔夜先生:
それについては、武内監督が非常に埼玉県に対して気を使って作りましたよね。後できいたら、埼玉県民の方が、「もっといじめて欲しかった」っておっしゃったというぐらいだから、もっとやってよかったのかなと思いますけれどね。

ただ、やっぱり怖いでしょ~。やりすぎると…。今の時代どうなるかわかんないから。で、監督が言っていたんですけれど、「埼玉ばっかり気にしていたので、千葉のことの気づかうのを忘れていた!」と。彼は千葉の人なんでね。千葉に帰るのが怖いって言っていました。

それにしても、麗(GACKTが演じている役)がすごいこと言ってましたね(笑)。
私が描いた台詞なんですが、正直言ってまったく(ディスリのセリフを)覚えていません。30年以上も前の話ですし、だいたい描いた作品は次から次へと忘れていく質(たち)なんですよ。先週書いたものも覚えていないくらいですから。ですから、ディスリ台詞も、完全に一観客として楽しませてもらいました。

 

(2)二階堂ふみとGACKTのダブル主演
他の候補は考えられなかった…

—GACKTさんは先生のほうから指名されたんですか?

魔夜先生:
最初に武内監督に会った時に、「キャスティングどうしますか?」という話になり、初めの段階から「GACKT」という名前が出てきたんですよ。もうスタッフもみんなびっくりして、のけぞりましたね。まさか、その名前が出てくると思わないしょう。そういわれて考えてみると、逆に これはGACKTさんしかありえないかなと思いました。

この作品自体が巨大な虚構ですから、その主役を張れるのは、相当な人でないと成りきれないですから。後で監督から聞いたんですけど、監督の中でも二階堂ふみさんとGACKTさんの2人以外には候補が思いつかなかったそうなんです。それにしても、あのお二人、よく引き受けてくださいましたよね。

©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

 

—以前からGACKTさんとは面識があったんですか?

魔夜先生:
いえ、撮影の日に初めてお会いしました。漫画が好きだと伺っていたので「もしかしたら、私の作品も、ちょっとは読んでくださっているのかな?」と訊いたら、 「ちょっとどころか、もう先生の大ファンです」とおっしゃってくださったんです。もう、それは嬉しかったですね。

 

(3)「あの頃は、所沢から早く脱出したかった!」


▲所沢なびのインタビューに応じる 魔夜峰央先生(東映本社にて)

—「翔んで埼玉」は、魔夜先生が所沢住民だったころ描いた作品とうかがっていますが、所沢の生活はどうでしたか?

魔夜先生:
所沢に住んだのは、1980年ごろ。ちょうど「パタリロ!」の連載が忙しくなって、新潟から上京することになったんですが、当時の『花とゆめ』(白泉社)の編集長が、東京ではなく所沢に住むことを薦めたんです。私は土地勘もありませんでしたし、あの当時、西武沿線には漫画家もたくさん住んでいたので、なんの疑いもなく所沢に住むことにしました。あの頃の所沢は、青い空と畑しかない住みやすい所でした。

—のどかな生活から生まれた作品だったんですか?

魔夜先生:
のどかすぎましたね。 もう早く脱出したかった!所沢に住んでしばらくして気づいたんですけれど、当時の編集長が所沢住民だったんですよね。だから、私を所沢に住まわせたかったんでしょう。ずーっと編集長に見張られているような、 毎日追い込まれているような心境でしたから。あの当時の所沢は、畑と青い空しかなかったんだから、仕事するしかないでしょう。そんな心境から生まれた作品だと思います。

結局、4年間所沢に住みましたが、その後、横浜に引っ越しをしたので、作品は未完のままで終わっているんです。あれは、私が所沢住民、埼玉県民だからこそ、自虐ネタで描けた作品なんですよ。「やっぱりこの人たちは、本当は東京・赤坂に住みたいんじゃないかな」というような、なんとなく、空気感みたいなことを感じていたんでしょうね。

 

(4)所沢で魔夜先生の遠距離恋愛が実る


▲魔夜峰央先生と奥様の山田芳実さん。 映画でご家族総出演(東映本社にて)

—所沢のどちらにお住まいだったのですか?

魔夜先生:
牛沼というところです。所沢市保健センターが近くにありました。所沢に住んでいた時代に、奥さん(山田芳実さん:バレエスタジオ主宰)と出逢い、奥さんも所沢に遊びに来てくれていました。

奥さま(山田芳実さん):
そうですね。40年近く前のことになりますね。先生のところに行くのに、所沢駅を降りてバスに乗って、バス停から畑の中を歩いて行きました。 「牛沼」という地名の通り、あの頃は、歩いている途中に本当に「牛」もいたんですよ。

 

—では、魔夜先生ご夫妻にとって、所沢が思い出の場所でもあるのですね。

魔夜先生:
何にもない所でしたが、所沢駅前は賑やかでご飯食べるところとかあって、何度か奥さんと一緒に行きました。

—奥さまは茨城県のご出身ですが、どちらでお知り合いになったのでしょうか?

奥さま(山田芳実さん):
亀戸の公民館でした。 当時私はまだ高校3年生で、別の漫画家さんのファンクラブの会長をしていたんですよ。そのファンクラブの交流会で魔夜先生がいらして。

私は茨城に住んでいたんですけれども、高校を卒業した後は、京都のバレエ学校に行っていましたから、先生と結婚するまでは、 ずっと遠距離恋愛でしたね。

 

—奥さまは「パタリロ!」のマライヒのイメージに似ていますよね。

魔夜先生:
よく記者さんに言われるんです。「マライヒのモデルは奥さんですか?」と。でも、奥さんと出会う前に「マライヒ」を私はもう描いていたんです。逆に 「マライヒ」と似ていたから、奥さんにひとめぼれしてしまったのかもしれませんね。

 

(5)埼玉県だから成立した作品

—奥さまの出身地、茨城県のディスリも書かれましたが、奥さまに怒られませんでしたか?

魔夜先生:
奥さんには怒られないですが、親戚から「ちょっとひどいんじゃないの」みたいなことを言われたみたいです。この作品は、「埼玉」だから成立したわけですよ。「翔んで茨城」だったら、こうはいかない。埼玉県以外、他の県では絶対成り立たないんですよね。

—それは埼玉県のどういったところでしょうか?

魔夜先生:
県民性ですよね。 埼玉県民はとても鷹揚(おうよう)で心が広くて笑い飛ばしてくれる気質があるから許されたんです。他の県だったらバッシングだけで、もうどうにもならなかったと思います。茨城だったら…そりゃ危ないですよね。『翔んで京都』だったら…もっとえらいことになるでしょうね。


▲魔夜峰央先生(左)と奥様の山田芳実さん

 

(6)魔夜先生の映画のみどころ
魔夜家族も総出演!

—先生が印象に残っている映画のシーンをいくつか教えてください。

魔夜先生:
二階堂さん(壇ノ浦百美)とGACKTさん(麻実麗)のキスシーンは美しかったですね。

キャストの衣装も豪華で見ごたえあります。京本正樹さん(埼玉デューク)のかつらが、100万円以上したというから、かなり凝っています。あの白髪は作り物ではなく、白髪の人毛で作っている特注らしいんですよ。

あとは、諒くん(加藤諒:下川信男 役)も注目して欲しい。「パタリロ!」の舞台をやっていたときに、「今度映画に出るんです」という話はきいていたんですよ。その時は、ちょっとした役かなと思っていたら、映画を観たら、けっこう大事な役柄でしたからね。彼は、舞台の「パタリロ!」で、埼玉県民をやっつけているシーンがいっぱいあるんです。その何か因縁で、今度は埼玉の一番下の役を演じているっていうのが面白いよね。

伊勢谷友介さん(阿久津翔 役)もいい味だしていたし、竹中直人さん(神奈川県知事 役)も面白かったですよね。まぁ、本当の神奈川県知事がみたら怒るかもしれませんけれどね。


▲阿久津翔 役の 伊勢谷友介さん ©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会 


▲埼玉デューク役の京本正樹さん(右)©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会


▲Z組生徒 下川信男役の加藤諒さん(左)©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

—魔夜先生は、冒頭の方で出演されていましたよね?

魔夜先生:
映画については、監督に何も注文をださなかったんですが、「ちょっとでいいから映りたい。通行人でもいいから」と言ってみたんです。すると、いつの間にか家族全員で、出演することになったんですよ。

—え!もしかして、あれは奥様でしたか!?

魔夜先生:
あの最初に10人の男性ダンサーが出てきますね。あの真ん中で踊っていたのが息子(山田眞央さん:東京バレエ団ダンサー)です。で、私が出てくる。その両脇で踊っていたのが妻(山田芳実さん)と娘(山田マリエさん:漫画家)です。息子は他にもシーンがありまして、埼玉県民の役でマンホールから出てきて海へ向かって歩いて行くというシーンですが、それも息子なんです。

—映画で魔夜ファミリーが総出演するなんて、ファンは喜びますね。全員がバレエができるなんて素敵です。

魔夜先生:
息子(山田眞央さん)は、東京バレエ団のダンサーをしていまして、奥さんは、横浜でバレエスタジオを主宰しているので、娘(山田マリエ:昨年、漫画家としてデビューしている)も奥さんのスタジオでバレエの助教師をしています。私も奥さんの影響でバレエをはじめていますから、奥さんの教室のバレエの発表会の時は、家族全員出演しています。

先ほどお話した冒頭の10人のダンサーが出てくるシーン。中央が息子なんですが、両脇の9人は新所沢の「NBAバレエ団」のトップクラスのダンサーなんですよ。息子からみても何ランクも上のバレエダンサーたちが、気を使ってくれてセンターで踊らせてくれたので、息子は恐縮しまくっていました。

新所沢のバレエ団が協力出演を引き受けてくれたのは、偶然なことだったそうですので、そういうところも、かつて私が 所沢住民だった因縁みたいなものを感じてしまいます。

—では、最後にこれから映画を観るファンにメッセージをお願いします。

魔夜先生:
これは監督が言っていたんですが、試写会をしたときに、「ここで笑うとこの県を馬鹿にすることになるのではないか」という遠慮がすごく感じられたそうです。あくまでもフィクションですから、笑いたいところで笑ってくださいとお願いしたいです。とにかく、最後まで笑い飛ばしてご覧ください。それぞれの郷土愛に向き合った作品に仕上がっていますから。

取材:成田知栄子


「翔んで埼玉」の原作本は


©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

 

原作本「翔んで埼玉」についてはこちらをクリック↓


Ⓒ魔夜峰央『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』/宝島社

 

 


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