所沢の仕掛人。津々見潤子さん 埼玉産の魅力発信「角川食堂」
所沢の仕掛人。 第14弾「角川食堂」
敏腕プロデューサー 津々見潤子さん
所沢の情報を発信する「所沢なび」では、「所沢の仕掛人。」をシリーズでお届けします。
このシリーズでは、「所沢を元気にする活動をしている人」にクローズアップしてご紹介していきます。
▲津々見潤子さん 角川食堂にて撮影
東所沢の「ところざわサクラタウン」3階に8月3日にオープンしたKADOKAWA直営の「角川食堂」が、全国から注目され、所沢と埼玉の食の魅力をPRしてくれています。地元の人からも「埼玉の食材ってすごい!」そんな声が聞こえてきそうです。そのレストランをプロデュースしたのが、KADOKAWA社員の敏腕プロデューサー津々見潤子さん。津々見さんにお話を伺いました。
取材:2020年9月 成田知栄子
もくじ
東所沢に〝日本最大級のポップカルチャーの発信拠点〟として期待が集まっている大型複合施設「ところざわサクラタウン」がまもなく11月6日にグランドオープンする予定です。
その中の一角に、8月3日に先行してオープンした「角川食堂」は、大手出版社のKADOKAWA直営で社員の津々見潤子さんが手がけたレストラン。地元の所沢市民が訪れても「地元の魅力再発見」ができるレストランと話題になっています。
大手出版社のKADOKAWAが異業種のレストランを手掛けるのは、これで2軒目。1店舗目は、2018年に東京・飯田橋の本社に開店した「INUA(イヌア)」で、津々見さんが立ち上げたレストラン。KADOKAWA初の外食産業参入にもかかわらず、いきなりミシュランガイドの星付きレストランとなり、話題となりました。
1.1000円で満足させる価値づくり
――今回2店舗目となった「角川食堂」をつくるとき、どんなことにポイントをおいたのでしょうか?
津々見さん:
KADOKAWA初のレストラン「INUA」は、デンマークにある世界最高峰のレストラン「NOMA(ノーマ)」との協業プロジェクトでした。ディナー・コースの客単価が6万円近くするハイエンドなレストランづくりです。家具や食器も最高級品を選び、「6万円の価値をお客様に提供するということはどういうことか」をスタッフと話し合いました。
今回はその経験を生かして、「角川食堂」の価値をどう提供するかを考えたわけです。定食で1000円くらいのレストラン。1000円でもお客様を満足させる価値とはどんなものか、ほかのレストランとはどのように違う価値を提供できるのかをスタッフとしっかりと話し合いました。
コンセプトとしては、「INUA」は〝非日常を演出する〟ことでしたが、「角川食堂」は、〝日常のリラックスできる場所である〟こと。おしゃれ過ぎず、とんがり過ぎず、抜け感をつくることを大切にしました。
そのためのこだわりの1つが、席の仕切りの壁の高さ。椅子に座った時に〝人目が気にならない壁の高さ〟というのは大切で、高すぎると威圧感があり、低すぎると人目が気になるものなんです。それができていれば、高級なインテリアにこだわらなくても、落ち着ける空間づくりができます。
▲「角川食堂」の店内。席を仕切る壁の高さの加減で快適空間を生み出す
――手掛けるレストラン2軒ともヒットさせるというのは、なかなか難しいことだと思いますが、KADOKAWAさんが外食産業に参入する前はどんな部署にいらっしゃったんですか?
津々見さん:
私はもともとは文芸書の編集者でした。社内では「食べることが好きな人」というイメージがあったようなんですね。給料の半分以上は食べることに使っている人だと。
それは事実なんです。私は食べることが好きで、おいしいレストランを探しては食べ歩いていましたから。それは半分は趣味で、半分は編集の仕事に役立てるため。
――レストランの食べ歩きが、文芸書の編集の仕事に役立つとはどういうことなんですか?
津々見さん:
編集者の仕事は、作家さんが120%のパフォーマンスが出せるように伴走することだと思うんですね。
作家さんがスランプになりそうな時、「おいしいところがあるから行きましょうよ」と誘うことで、外に連れ出す口実ができます。それが気分転換になり、いいアイディアが出て、いい作品を生んでくれます。また、打ち合わせもおいしい食事をしながらですと、作家さんの気持ちが前向きになり、話しやすいことも多いです。
そんな時のためにと、いろいろレストランを下調するのが趣味のようになっていたんです。そんな私の様子を社内の人が見ていて「津々見といえば食べる人だ」みたいな、そんなイメージがついてしまったようです。
▲インタビューを受ける津々見さん
3.食のプロデュースと本の編集は、実は似ている!
角川食堂が地元とつなぐタッチポイントに
――編集者の仕事から、レストランのプロデュースに転身されご苦労も多かったのでは?
津々見さん:
レストランのプロデュースの仕事は、編集の仕事と異質に思うかもしれませんが、実は仕事の手法はあまり変わりません。
編集者の仕事が〝作家さんの才能を引き出す〟ことですが、レストランのプロデュースも〝才能のあるシェフの能力を最大限に生かす方法を考える〟ことが大事なんです。環境的なものでいうと、厨房を動きやすく設計するとか、使いやすい器具をえらぶとか。
どのようなレストランにしたいのか、ゴールを明確に決めて、それをシェフに伝わるよう話し合うことが大事。そして、ゴールに向かうための方法を考えることです。
まず、ゴールの明確化ですけれど、東京からKADOKAWAがきて、「地元の人にも受け入れてもらいたい」。そんな気持ちがまずあって、じゃぁ、「所沢だからできること」「所沢でしかできないこと」「所沢の良さを出すレストランとは」ということをシェフと長い時間かけて話し合いました。
調べていくと、所沢は何代も続く農家さんが多く、おいしい野菜が採れるというのがわかってきて、シェフと一緒に農家さんをまわって、話を聞きました。
そんな調査から、「所沢の野菜の良さを出し、健康的で毎日食べても飽きない料理を出すレストランにしよう!」というシェフと共通のコンセプトが固まってきたんです。
一番初めの「角川食堂」は、社員食堂にすることだったのですが、このコンセプトなら、「社員だけでなく、地元の人や一般の来場者にも使ってもらえるレストランにすればいいのではないか」ということになりました。
そうすることで、〝閉ざされたKADOKAWA〟ではなく、「角川食堂」が、KADOKAWAと地元の人とが共有できるタッチポイント的な役割を果たせるのではないかと思ったんです。
▲ところざわサクラタウン内にできたKADOKAWAの新オフィスと書籍製造・物流工場
--グランドメニューは作らないんですね?
津々見さん:
〝健康的で飽きない料理を出す〟というのが「角川食堂」のコンセプトで準備を進めていった結果、毎朝、農家さんが朝採れのものをランチに間に合う時間に届けてくださる協力者もみつけることできたんですね。それで、その季節、その日、農家さんが届けてくれるおいしい素材を料理にしてお出ししようということにしました。
そのためにグランドメニューをつくることができないんです。朝採れだから、ギリギリになるまでメニューが決まらないこともあったり、急遽、メニューが変わることもあります。
これが、「角川食堂」がグランドメニューをつくらず、「日替わり・週替わり」でメニュー構成をしている理由です。
一応、1週間のメニューは出しているんですけれど、朝採れによって、内容がちょっと違うということもあります。逆に地元の方は、それを楽しんでくださっているかのように感じています。1週間のはじめに、twitterやインスタでメニューをお知らせするようにしているんですが、「今日は何のメニューかな」と楽しみにしてくださり、何度も足を運んでくださるお客さまも多くなりました。
▲ある日の「週替わりオムライスハンバーグ定食」(左)と「日替わり定食」。主な食材はすべて埼玉県産
――すべて所沢産でそろえるのでしょうか?
津々見さん:
さすがに所沢産だけでそろえるのは難しいので、主な食材は所沢を中心とした埼玉県産を使用しています。
小麦粉は坂戸。ご飯ももち麦も「ゆたか農場」という熊谷からのもの。きのこは秩父産。揚げ物の粉も埼玉県産。シフォンケーキの全粒粉も埼玉県産。
埼玉県産の食の魅力を体験できます。シフォンケーキなどは、特に美味しいと好評をいただいています。
▲3種の野菜付け合わせ付き「角川食堂カレー」(左)と埼玉県産小麦を使った「シフォンケーキ」(右)
――特に「角川食堂カレー」はSNSでの口コミがいいですね。
津々見さん:
ありがたいことです。
角川食堂カレーには「ミール」という必ず3種類のお野菜の付け合わせをのせているんですが、それは、ほぼほぼ朝採れ野菜なんですね。だから、おいしくないわけがないんです。
普通の席数の多いレストランだと、野菜の下処理は、外注に出し、カット野菜を仕入れることが多いのですが、角川食堂は、下処理からスタッフがやっているんですよ。そこに味の違いが出ているのをお客様がしっかりわかってくださるという気がします。
新鮮なものを新鮮なままお出しする。丁寧に自分たちで責任をもって食材の下処理をする。それが私たちのコンセプトです。
――カレーのルーづくりにはかなりこだわったとお聞きしていますが。
津々見さん:
カレーのルーづくりには、ストーリーがあって、ホームページでもご紹介しているのですが、カレーへのこだわりが強いKADOKAWAの社員の意見を取り入れ、何十種類のスパイスを調合しながら、ゼロから作りました。
「〝ONE AND ONLY(ワン・アンド・オンリー)〟唯一無二のカレーが作りたいね」ということを考えていて、開発だけで半年以上。試食会は大小合わせて何十回も行ってつくり上げたこだわりカレーです。
カレーも常時3種類のカレーをお出ししていて、カレーの辛さも選べるようにしています。〝合い掛け〟も楽しめます。また、週替わりで2種類は変えているので、平日、毎日きても、全部違うカレーが楽しめます。
――いよいよ、11月6日、ところざわサクラタウンがグランドオープンしますね。
津々見さん:
「ところざわサクラタウン」は、KADOKAWAのコンテンツを生かして、世界中から人を集めたいということもありましたが、やはりその前に、KADOKAWAと地域の人との連携が重要なミッションです。
「角川食堂」は8月に先行オープンした分、一足早く、地元の方たちの心をつかめたように思います。グランドオープン後は、いろいろなお店もオープンするので、楽しいスポットになっていくのではないかと思います。来場された際には、「角川食堂」で埼玉の食の魅力を味わっていただければと思います。
▲津々見潤子さん 「角川食堂」の入り口で撮影
1971年生まれ。東京外国語大学フランス語学科を卒業後、銀行勤務、他出版社を経てKADOKAWA入社。
文芸編集者としてニール・ゲイマン作品、越前敏弥氏のクイーン新訳シリーズなど海外文学を多数担当。電子書籍では、小松左京作品の角川文庫作品の全点電子化、生頼範義画集などを刊行。
新規事業プロジェクトに参加後はレストラン「INUA」を担当。デンマークのレストラン「NOMA」との契約交渉から店舗開店まで一貫して携わる。 2020年8月3日、「ところざわサクラタウン」に2軒目のレストラン「角川食堂」を開店させる。
◆角川食堂◆
平日 8:30〜17:00(ラストオーダー16:00)
土日祝日 11:00〜17:00(ラストオーダー16:00)
*土日祝日は特別メニュー(お得なカレーセット)のみ
全席禁煙 170席
コロナウィルスの情勢などの状況により営業形態が変更になる場合は、SNSで発信
【住所】埼⽟県所沢市東所沢和⽥3-31-3 ところざわサクラタウン3階