最終アーティストは東久留米出身・大小島真木さん《綻びの螺旋》角川武蔵野ミュージアム
アマビエ・プロジェクト第六弾、大小島真木さんが描く《綻びの螺旋》
ファンタジックかつ荘厳な空間に浸る
角川武蔵野ミュージアムでは、現代を生きるアーティストがコロナ禍において感じたこと・経験したことをもとにした「アマビエ・プロジェクト」作品が公開されています。第六弾・最終アーティストとして作品を披露している東久留米市出身の大小島真木さんを取材しました。
2021年10月取材 前原麻世
▲画家・大小島真木さん
パンデミックが明らかにした「綻び」の螺旋とは?
2020年、私たちはパンデミックともいうべき世界的な新型コロナウイルスの流行を目の当たりにしました。そんな中、画家の大小島真木さんは世界に様々な「結界」が張られたと感じたのだそうです。
パンデミックの拡がりを抑えるための「境界線」を作ること。
国単位・県市町村単位、そして身近な人ともソーシャルディスタンスを取る、といったかたちで私たちはそれを実行してきました。
しかし、果たして完全なる隔たりというのは可能なのだろうか? そしてそれは人を幸せにするのであろうか?
かねてより、「境界線(ボーダー)」について興味のあった大小島さんが着目したのは「綻び」でした。
国境が閉じても新型コロナウイルスはやって来たし、私たちの体だって完全に閉じることはできません。それは、大小島さんが「綻び」と呼ぶような穴があるからで、だからこそ呼吸をし、そとから食べ物を取り入れ中に取り込むことができ、そのことによって私たちは生かされています。
「「綻び」があることで、私たちはどんなに距離をとっても、身を隠しても、引きこもっても「絡まり合い」というものから逃れることはできません。そして、絡まり合いによって生かされていることもあれば、時には、殺(あや)められてしまうこともある。」
▲画家・大小島真木さん
それを私たちは「依存」と呼ぶことも、「共生」と呼ぶこともできるのではないでしょうか。それらは混じり合っているものなのです。
「距離の問題、絡まり合いについて、綻びを含めての円環である螺旋を作品のテーマにして作りました」と大小島さんは話します。
東久留米の湧き水でコーヒーを飲んだ家族の時間・思い出
西武線ユーザーにはなじみがある東久留米市。大小島真木さんはそこで生まれ育ちます。
所沢から近いエリアですが、大小島さんはどんな子供時代を過ごされてアーティストになったのでしょうか?
「週末、自転車で往復一時間ほどの湧き水が汲める神社に家族で向かい、コーヒーを淹れて飲んでいました」
そう、同市には名水100選にも選ばれる落合川があります。身近な自然と触れ合ってきたのです。
しかし、その理由を話す過程でこんな話もしてくれました。
「私が5歳くらいの時、祖母が寝たきりになってしまって。それから、18年ほど、亡くなるまでその状態でした。私の父母と叔父は働きながら祖母の介護をしていました。介護のために、すぐに家に戻らなければならないから、遠くに行くようなことはできなくて、一般的な家族のお出かけ、遊園地や映画なんてものはまったくありませんでした。それで自転車で行ける範囲の神社に行こうか!って。ある意味ごまかされていたというか(苦笑)」
仕事に介護に忙しい両親が与えてくれた身近な自然との触れ合い。しかし、それだけではなかったようで……
「寝たきりのおばあちゃんを連れて、母の生まれ故郷である大分まで旅行することもありました。夜中に車でみんなで移動する長距離の旅を面白く感じていました。
東久留米は東京の中では素朴な場所と言われますが、大分の山の中のワイルドなたくましい自然も興味深かったです。比較することによってそれぞれが持っているものの面白さを感じることができました。」
今作にも様々な動植物を描いている大小島さん、その成長過程には、町のそばにあった身近な自然と、九州の山中のワイルドな自然とに触れ合う時間があったようです。
どこをどう見たらいい?鑑賞ポイントはこちら!
今回の展示は角川武蔵野ミュージアムのエントランスフロア全体を使い、大小島真木さん自身のアーティストとしての集大成ともいえるダイナミックなものになっています。
「どこをどう見たらいいの?」なんて思う方もいるのでは?
所沢なびスタッフが、みどころ、鑑賞ポイントをお伝えします!
【鑑賞ポイント 其の一】フロア全体を使っての大型展示、入口には「手」が!
この展示、実はミュージアムに入る前から始まっています。入口前に描かれているのは印象的な「手」です。
また、入館するとフロア全体を使った展示であるということが分かるはず。迫力あるアート空間を堪能してください!
▲《綻びの螺旋》
▲フロア全体を使ったダイナミックな展示。
【鑑賞ポイント 其の二】床に“言葉”、お気に入りを見つけて。実は魔法陣!
角川武蔵野ミュージアムに来た際「天岩戸みたいだな」と思ったという大小島さん。そして「この閉じられた空間にも綻びの介入が入っていく」イメージを抱いたのだそう。
▲螺旋でもないし、完全な丸でもない魔法陣は、大小島さんによると「盛り土を押してそこに水を入れて、土が崩れていく様をドローイングしたもの。」
▲思わず読みふけってしまう言葉の数々が……
▲《綻びの螺旋》
そこで、グラフィックシートを用いて床に「魔法陣」を描きその上に言葉を載せ、根っこのように伸びた陣を介して、床に言葉がたくさん入り込むさまを表現しました。
大小島さんが紡ぎだす言葉には“なるほど”と思わせるものがあり、筆者も床を食い入るように見つめてしまいました。
【鑑賞ポイント 其の三】絵を前にして荘厳さに浸る巨大な「マンダラージュ」
この展示の主役が、5.8×6.5メートルの巨大絵画「マンダラージュ」。「巨大な受精の瞬間を描いて、いろんな生物たちの絡まり合いによって存在している」という樹です。
▲《綻びの螺旋》マンダラージュ
▲「マンダラージュ」と「マンダラーシュ」
キメラ的な生き物たちがたくさんいて、様々な種がまじりあって存在してしまっています。
▲《綻びの螺旋》
大小島さんが伝えたいのが“サンゴのような生体”を表す「ホロビオント」という考え方。「それぞれの種が独立して生きていながら、その全体がお互いが絡まって共生していないと生きていけない、結果としての、いろんな生物たちの群体を構成するその全体像をホロビオント」というのだそうです。
▲《綻びの螺旋》
“共生”というとあたかもお互いを助ける“いいもの”ように思われるかもしれないけど、実は生体というのはお互いが独立してそれぞれ生きていながらも、補完作用になって、その結果生かされているのではないか。そんな考え方なのです。
大小島さんの描くマンダラージュを前にし、様々な生き物や、自分の身の回りの補完作用について思いを巡らせてみてください。
▲「マンダラージュの種というイメージ」の「マンダラーシュ」。服を作るときに必ずできる端材を、もう一度綿にし、糸にして生地にして、という再生布プロジェクト「アップサイクルリノ」と提携して制作した。粟島のおばあちゃんが刺繍で縫ってくれた目がついている。
角川武蔵野ミュージアムは”異世界”を主張する「天岩戸」
取材の最後に大小島さんに、角川武蔵野ミュージアムについてどう感じたか伺いました。
▲画家・大小島真木さん
「外と中がはっきり違うというのが面白いですよね。昨今美術館というのは公共性を求められていて、シームレスというか中と外が繋がっていくというコンセプトが多い中で、ここはハッキリと、外と中との違いを提示し、異世界であることを意識させる作りになっていますよね。
ハッキリと中と外を意識すること。それは、すべてがへだてられていればいいということではないけど、シームレスが流行っている中で真逆を行くというのも、稀有な存在なのかなと。この展示のテーマ《綻びの螺旋》というのはこの美術館だからこそ生まれたようなものなんです。
堅牢な天岩戸の中にアマテラスが閉じこもって世界が暗くなる、でも太陽に出てきてほしいからみんなが宴をして開くのを待つ。そうやってすべてが閉じられてはいけないからこそ、私たちは宴をして綻びを待つというか、スキマを待つんです」
▲角川武蔵野ミュージアム
私たちの身の回りにある「綻び」とは何なのだろう……?
大小島さんの作品を鑑賞し、彼女の話を思い返すと、私たちの生活において様々な綻びがあることに気づかされました。
その綻びを自分はどうとらえるのか。観た人は自問自答するのではないでしょうか?
角川武蔵野ミュージアムで、圧倒的な迫力の巨大絵画が生み出すファンタジックかつ荘厳な空間に浸ってください!
大小島真木さんの作品《綻びの螺旋》は角川武蔵野ミュージアム2Fエントランスホールにて展示中
チケット不要です。詳細は、角川武蔵野ミュージアム公式サイトでご確認を。
いまなら、大小島さんの作品と共に、荒神明香さん作品《reflectwo》、大岩オスカールさん作品《The Sun and 10 Ghosts(太陽と10匹の妖怪)》も鑑賞できます。
■施設詳細
【角川武蔵野ミュージアム】
〒359-0023
住所埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3
【アクセス】JR武蔵野線「東所沢駅」から徒歩10分
▶角川武蔵野ミュージアム・公式サイト https://kadcul.com/
▶《コロナ時代のアマビエ》プロジェクト https://kadcul.com/event/29