一度はあきらめた飲食店、若き経営者が「世界食堂」に託した思いとは?名付け親・齊藤裕人さんに聞いた
「世界食堂」という名前がついた、そのワケとは?
令和の所沢に出現した大衆「世界食堂」。今回はその“名付け親”とも言うべき人物にお会いしました。地域のことを考え、西所沢にカフェレストランをオープンするも、コロナ禍に見舞われ数ヶ月で閉業……。若き経営者が出資者として「世界食堂」に託した思いとは?
2022年1月取材 前原麻世
メニューに「ワニ肉のからあげ」はありません
所沢駅から徒歩10分、元ライブハウス「mojo」のあった場所に昨年12月、異色の食堂が開店した。その名も「世界食堂」。仕掛け人は所沢でシェアスペース「SAVE AREA」やイベント「宵の市」などを手がける角田テルノさんだ。彼の呼びかけにより所沢周辺で活躍する料理人やクリエイターが集まり、新しい世界観の飲食店が産声を上げたのだ。
ところで、なぜ「世界食堂」という名前なのだろうか?
ぱっと見、ロゴのデザインも相まって、サブカルっぽさも感じさせる。もしかしたら、ワニ肉のからあげやらピラニアの刺身なんかが出てくるのではないか?そんな憶測もすこしばかり抱いてしまう。
しかしながら、“食堂”とだけあって、温かみというか「誰でも寄っといで」という雰囲気を漂わせているようにも思う。
そこで、現地で店先の看板を見ると、「本日の定食、チキン南蛮」とある。「ふむ、チキン南蛮か、まちがいなさそうだな。それなら入ってみよう」そんな場所なのである。
コロナ禍で泣く泣く閉店した西所沢駅前のレストラン「sumikko1031」
2022年1月現在、ワニ肉のからあげが提供される訳ではない「世界食堂」で、今回筆者がお会いしたのは、名付け親でありさらには出資者でもある齊藤裕人さんだ。
正直、“出資者”というだけあって、筆者はステレオタイプにイケイケな中年男性を想像していたのだが、会ってみたら人懐こそうな笑顔の男性33歳だった。
「僕なんかが話すことはあまりないんです……」そう言いながら、齊藤さんは取材に応じてくれた。
もともと、齊藤さんは西所沢の駅前で2019年にオープンした「sumikko1031」というカフェレストランを経営していた。齊藤さんいわく「さびれていた西所沢を“食”で活気づけることができたら」、そんな思いだったという。
▲2021年2月に閉業した西所沢駅前の「sumikko1031」
子連れで来てくれるママさんや、毎日のように通ってくれるおばあちゃんなど、ファンも付いてきたかなという頃、時代はコロナ禍に突入する。大学時代は薬学を学んだ齊藤さんは「この状況は長引くだろう」と察し、2020年2月末には閉業、と早めの判断を下した。
店は泣く泣く閉店したが、開業中に芽生えた交流が途絶えることはなかった。
その一人が前述した「世界食堂」仕掛け人のテルノさん。SAVE AREAが「sumikko1031」に近いこともあり、店をやっていた頃は食事をしに来てくれたこともあったという。そんな中で交流が生まれ、それは閉業後も続いた。
「mojo」移転後も”あの場所の記憶”を途絶えさせたくない!
2021年春、齊藤さんは、元「sumikko1031」の料理人である相原さんとキッチンカーでの料理提供を仕掛けようと思い立つ。相原さんの料理人の腕は確かで「くすぶらせておくのはもったいない」、齊藤さんはそう考えたのだ。
出店場所のひとつに選んだのはSAVE AREA。テルノさんに相談すると、出店を快諾してもらえた。
初夏には「オムハッシュドビーフ」を提供するキッチンカーが始動した。
▲save areaにてキッチンカー
実はその頃すでに、「mojo」の移転が話題に上がっていた。
「『mojo』が移転するらしい」。
テルノさんや周囲の人々は、そのことを惜しく思っていた。どうにかあの場所で、三角のカウンターを軸に客席があり音楽や食事を提供する場を通じて人と人が交差するイメージ、それを引き続き描けないだろうか。そんな声が上がった。
やがて、それはテルノさんプロデュースの飲食店オープンの話に発展していく。
齊藤さんはテルノさんのそんな思いに若い世代として共感し、一度はあきらめた飲食店経営に足を踏み入れることを決意する。
齊藤さんの願いはそれだけではなかった。sumikko以来のつながりである確かな腕を持つ料理人・相原さんの料理を「所沢でもっと多くの人に食べてもらいたい」、そんな思いもあった。
▲「sumikko1031」では主にイタリアンのメニューを提供していた
“世界”食堂というネーミングは「冗談のつもりだった」
さて、「世界食堂」というネーミングについて、そもそもの発端は、テルノさんが周囲の人に行った“アンケート”だったという。
▲角田テルノさんのFacebook投稿画像より
テルノさんが、飲食店をやるにあたって周囲の人に「何を食べたい?」と聞いたのだそうだ。そのアンケート結果を眺めていた齊藤さんは思わず「これって『世界食堂』ですね」と口に出してしまう。慌てたのは料理人の相原さんだ。飲食店名に“世界”なんて冠してしまったら、メニューの広がりは無限大、料理人・厨房へのプレッシャーはハンパない。相原さんは「嫌ですよ。」と答えた。齊藤さん自身も「冗談のつもりだった」と弁解する。
ところが、その名前をテルノさんが気に入ってしまう。また、都合のよいことに「いろいろな世界観を持った人が集まる場所」という店のコンセプトにも合致してしまった。
かくして、めでたくここに所沢の大衆食堂「世界食堂」が産声を上げることになったのだ。
「自分はまだまだ若造。地元に根差して、自分のできることで協力したい」
現在、所沢の「世界食堂」では出資者としての顔を持つ齊藤さん。経営者としては、国分寺で放課後デイサービスの運営・現場仕事に携わり子ども達の健やかな育ちをサポートする。「sumikko1031」をクローズしたあと、何か自分が世に貢献できることはないか、地元の“飲み友達”と話しながら模索し、見つけた道だ。
「世界食堂」を通じて、齊藤さんが見ようとしている所沢の未来はどんなものなのだろう?わかっているのは、西所沢駅前の「sumikko1031」で齊藤さんが感じた手ごたえの延長線であるということであろう。それなら私も応援したい、そう思わせてもらった。
■店舗詳細
住所:〒359-1124 埼玉県所沢市東住吉7−9 ティーイングビル 201
営業時間:
ランチタイム11:30〜15:00
ディナータイム17:30〜21:00
定休日:火曜