「小説天気の子」ごま油香る豆苗ポテチャーハンが所沢の給食に!その舞台裏とは……
「小説天気の子」ごま油香る豆苗ポテチャーハンが所沢の給食に!その舞台裏とは……
2020年秋、ある情報が所沢市民のSNSで話題になりました。
「ところざわサクラタウン 角川武蔵野ミュージアム」のオープンにあたり、「所沢市内の学校給食にあるアニメ作品に登場したメニューが出るらしい」。
多くの大人が、「え?!なにそれ見てみたい?でも給食じゃ子どもに写真撮ってきて……ってわけにもいかないし」
そう思ったことでしょう。
そんな大人たちのつぶやきが聞こえそうななか、所沢なび、潜入してきました!
中学校に給食を見に!
どんな献立だったのか、生徒の反応は、そして企画したのは一体どんな人物なのか、当日の写真を交えてお伝えします!(はじめにお伝えしておきますが実食レポありませんアシカラズ)
2020年11月 前原麻世
所沢市内の小学校・中学校で振る舞われた「ごま油香る豆苗ポテチャーハン」
2020年11月12日、所沢なび記者が向かったのは小手指中学校。
給食の時間に、「『小説 天気の子』ごま油香る豆苗ポテチャーハン(学校給食バージョン)」 が提供されるというのです。
▲所沢市立小手指中学校へ到着。
「ごま油香る豆苗ポテチャーハン」とは「小説 天気の子」の作中に登場するメニュー。
故郷である島を飛び出してきた家出高校生・主人公帆高が、祈ることで天気を晴れにできる少女陽菜の家に行った際、振る舞われる料理です。
(作品をご覧になっていない方に”ざっくり”とお伝えすると、要はこれ、帆高君の初恋の話です。)
生徒は給食の前に「天気の子」の映画を抜粋して観覧、それから給食当番の生徒さんが配膳をすることとなりました。
給食の説明にあたり、黒板には栄養士の方の手による献立紹介がありました。
▲「小説天気の子」に登場する「ごま油香る豆苗ポテチャーハン」学校給食バージョンの作り方が黒板上でレクチャーされました。
果たしてどのように提供されたのか?
今回このメニューのポイントになっているのは、単なる”チャーハン”ではなく、ポテトチップスを混ぜ込んだ”ポテチャーハン”であること。
作中では、帆高が陽菜に”差し入れ”、として渡したポテチが使われています。
それを表現するため、今回は配膳前・後にいくつかの工程がありました。
(1)袋越しにポテトチップスを細かく割る
給食当番の生徒さんと、指導役の給食センターの調理員山田さんでポテトチップスを割っています。「あんまり細かく砕き過ぎてもダメなんだよね。どれどれ、うーん、もうちょっと砕いてもいいかな」と山田さん。
(2)割ったポテトチップスをチャーハンと混ぜる
チャーハンの入ったおひつにポテトチップスをふりかけ混ぜます。ポテトチップスがピンク色なのにお気づきになられましたでしょうか?
(3)配膳されたものはこちら
この段階ではまだ完成とは言えません。
左端の「豆苗ツナサラダ」と汁物に入っている「うずらの卵」に注目!
(4)仕上げ
ポテチャーハンに生徒自ら「豆苗ツナサラダ」と野菜スープに入っていた「うずらの卵」を載せる。
ポイントはチャーハンにうずらの卵用の”くぼみ”をつけること。
(5)完成!
こちらは見本用に作っていただいたもの。余談ですがお皿には所沢のシンボルマークが付いているんですね。
と、こんな流れで、生徒たちの手により「ごま油香る豆苗ポテチャーハン」学校給食バージョンが完成しました!
調理員・山田さんによる献立の説明
生徒たちが給食を食べる間、調理員の山田さんによる献立の説明が行われました。
「皆さんこんにちは。調理員の山田です。
所沢市に角川武蔵野ミュージアムができたのは知っていますか?
まるで巨大な岩山のような、”所沢のエアーズロック”なんて言いたくなるようなかっこいい施設です。
こんなにすごいものが所沢にできるなら、学校給食でも何かできることはないかな、と思い、特別献立を考えました。」
「いま、新型コロナウイルスの影響で、子どもたちみんな我慢していることがあると思う。
本来なら給食の時間って、食べるだけじゃなく、おしゃべりしたり楽しい時間を過ごす場だと思うんだけど、極力会話を避けてもくもくと食べる、そんな時間になっているのではないかな」
そうなんですね、机を合わせて”島”を作ることなく、授業中と同じように正面を向いて給食を食べなければならないのが、今の子どもたち。
なんだか私も切ない気分になってしまいました……。
山田さんは続けます。
「そんな時だからこそ、少しでも給食を通じて”楽しい気分”になってもらいたいなという思いも、この献立には込められています。」
……と、その時!
♪愛にできることは まだあるかい
僕にできることは まだあるかい
そう! この作品の映画版主題歌の印象的な歌詞が、教室内のスピーカーから流れてきたのです。
思わず、胸に込み上げるものがありました……。
今、いろいろと大変な時だけど、調理員さんの生徒を楽しませたいという”思い”がこの給食に表れている。
それって「愛」なんじゃないかな……と。
粋な選曲、そしてナイスタイミングでした!
小手指中学校の放送委員会の方、ありがとうございました!
生徒さんたちの反応やいかに?
給食を食べた生徒さん、皆笑顔でしたよ!
「ポテトチップスのサクサク感がチャーハンに合う!」「またこういう特別給食があるといいな」というコメントをいただきました!
なかには、やはり「小説 天気の子」を読んだという生徒さんもいらっしゃいました。
生徒に混じって給食を召し上がってた所沢市教育長さん! その味に「マル」を付けてくれました!
特別給食の舞台裏とは? 企画の意図は?
今回この献立を企画した山田さんにもう少しお話を伺いました。
--いつこの企画を考えたんですか? なぜ「天気の子」をえらんだのでしょうか?
山田さん: 「実は、この企画は、春の休校期間中、自宅研修の一環で提出したものなんです。
たまたま、娘が借りてきたDVDを観る機会があって、それがこの作品だったんですが、ヒロインが主人公に振る舞うメニューがとても美味しそうで。給食でも再現できないかなと思いました。」
--この給食を提供するにあたって、大変なことはありましたか?
山田さん:「この給食はうずらの卵が必ず一人に一個入るようにしないと成立しないんです。
そこでうずらの卵が人数分入るようにするために、給食センターの職員で数を数えました。なかなか大変でした。」
--また、こういった特別給食が企画されることはあるのでしょうか?
山田さん:「詳しいことは言えないのですが、今後もこんな企画を検討中です。楽しみにしていてください!」
現場主導のわくわくが詰まった企画だったんですね。
もしかしたら、これからも何か企画されることがあるかもしれませんね!
実は、調理員の山田さん、毎年行われる「食育フォーラム」では、そのトークの面白さを楽しみにわざわざ足を運ぶ方がいるほど! 名物調理員さんなんです。
そんなすてきな職員さんがいるなんて、市民としては心強いし、うれしいですよね!
「ポテトチップスはなぜピンク色なの?」注目の所沢食材
今回の特別給食、注目してほしい所沢食材がいくつかあります。
まずはポテトチップス。
「ポテトチップスがなぜピンクなの?」と皆さんお思いになったのではないでしょうか。
このポテトチップス、所沢産のじゃが芋「ノーザンルビー」から作られたものなんです。
非常にレアな食材ですが、市内農家さんのご協力により今回の給食のために特別に用意していただいたそうです。
ちなみに、ノーザンルビーという品種は、皮も中身もきれいなピンク色のじゃが芋です。
そして、うずらの卵。
所沢市民の方にはおなじみ、50年以上の歴史を持つ「株式会社モトキ」のものを使用しています。
「株式会社モトキ」は、昨年秋に台風に見舞われ工場が浸水し、日高市にある飼育場では多くのうずらが被害に遭い、再建を目指す中、今年春からのコロナ禍に見舞われ、外食産業からの注文が激減する事態に……。
現在は、苦しい中でも「巣ごもり需要」に目を付け、うずらの卵だけでなく、うずら肉を使用した新商品の開発などに取り組んでいます。
様々なかたちで「がんばっている」所沢の食品業界。
給食を通じて、生徒さんに所沢市内の食品産業に興味を持ってもらうことができるのも良いことですね。
「給食の時間」を作り上げてくれる現場の方に思いを馳せよう
子どもの頃、毎日食べていた給食。
おいしく食べたものもあれば、苦手なものもあった。
友達と楽しくお話することもあれば、牛乳をこぼして悲しくなることもあった。
給食当番で協力することを覚えた、ような気もする……。
給食とは、子ども達にいろいろな経験をさせてくれる、意義深い時間だったのかもしれません。
今回の特別給食への取材は、そんな給食の舞台裏を垣間見せてくれた気がします。
そして、そんな給食を支えているのが、素敵な調理員さんたちや職員さんたちだということ。
私たち親世代の当たり前は、子ども達世代にとってはそうでなくなってしまうかもしれないけど、現場でわくわくしながら工夫を続けている大人がいることに、なんだか救いを感じました。
学校から配られてくる「こんだてひょう」、たまにはじっくり見て、給食づくりの現場の方々に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
▲教室の外に出たら、廊下に貼ってあったイラストは新海誠監督の2016年公開のあの作品!偶然とのことですがなんだかびっくり!