ドキュメンタリー映画監督からグルテンフリー菓子の道に。河合樹香さん


【所沢の人】ドキュメンタリー映画監督からグルテンフリー菓子の道に。河合樹香(かわあいじゅか)さんにインタビュー

所沢在住のライター、前原です。
今回は、所沢のマルシェやマーケットでグルテンフリーの焼菓子で参加、ドキュメンタリー映像作家としての顔も持つ、河合樹香さんを取材しました。


【河合樹香さん プロフィール】
1978年生まれ。2001年にミシガン州立大学テレコミュニケーション学科卒業、国際連合大学環境ガバナンス/生物多様性専攻修士課程。
鎌仲ひとみ監督『六ヶ所村ラプソディー』の助監督を経て2006年グループ現代入社。アジア太平洋における映像を通じた環境教育を目的とする特定非営利活動法人環境テレビトラスト(TVEジャパン)の常勤職員兼制作ディレクター・プロデューサーを担う。監督作品『ホッパーレース―ウンカとイネと人間と―』は2013年ゆふいん文化・記録映画祭第6回松川賞受賞、2014年第55回科学技術映像祭内閣総理大臣賞受賞。現在、グルテンフリー菓子作りで所沢各地イベントなどに参加。所沢在住。

 

高3からアメリカ生活5年間、泣く泣く帰国したテロ後

前原:「米粉パンケーキ」だったと思います、私が初めて河合さんのお菓子を食べたのは。
河合さんが「コモンズキッチン」としてSAVE AREAのイベントに出店している時でした。
米粉やグルテンフリーと聞くとぼそぼそした食感や素朴なイメージがあるけど、そのパンケーキには「リッチな味で満足感があるなあ」という印象を抱いたんです。
その後も、SAVE AREAのフレッシュマーケットや、6月には「つばきの森のマーケット」で揚げたてドーナツを食べさせてもらったのが美味しかったのです。
そんな、お菓子に注力している河合さんが、ドキュメンタリー映画監督としての仕事もしていたと知り、もっと話を聞いてみたいと思いました。
どうして映像の道に入ったんですか?
アメリカ留学をしていると聞いたけどアメリカ生活はどうだったのでしょうか?

河合:高校時代は家にあるホームビデオカメラを使って、例えば洗顔フォームのCMのパロディを作ったりしていました。
映像を撮って、歌も好きだったのでその画像に歌を付ける。でもそれは本当にお遊びでしかなくて……。
大学に入るとき、専攻を決めるにあたり映像を選びました。
高校時代に短期留学をしたんだけど、もっと居たいなと思って、高校3年からアメリカの高校に編入しました。
大学はアメリカの中でも田舎と言われているミシガン州で、デトロイトが近く自動車産業に従事している人が多いエリア。
その時のホストファミリーはとっても温かくて、今でも私にとって大切な第二の故郷です。
でも、保守的な側面を持つ町でもあり、そこにずっと住むのは私には向いていないかなと感じてしまい……。
大学を出てからは大都会のロスに拠点を移しました。

 

前原:地図を見るとミシガンからロスアンジェルスって、アメリカの端から端なんですね!
かなり離れましたね。
どんな仕事をしていたのですか?

河合:その頃は、海外にCM撮影をしに来る日本企業がまだ多かったんです。
大学出たての私でもコーディネーターアシスタントをしていました。
でも、ロスでまず困ったのは、住むところ。
最初に住んだのは治安の悪いダウンタウン。
シェアハウスのハウスメイトは、なんとコンピューターハッカーの経歴を持つ知的なおじさんでした。
カードの悪用方法なんかを、知り合って日の浅い私に教えてくれて、それはそれで面白かったんだけど自分の身の危険を感じるようになり……、早めに逃げました。
その後もなかなかいい場所に出会えず、田舎出の学生が都会にポーンとやって来て、都会の殺伐とした雰囲気や厳しさを知りました。
3か月ほど転々とした後、ようやく学生のルームシェアで安心できる場所が見つかり居を構えました。
実は私がロスに移り住んだのは2001年の911テロがあった半年後。
私は住む場所も落ち着きようやく仕事にまい進しようとしていたんだけど、日本の企業がアメリカでの撮影を敬遠するようになり、仕事も激減していたような時期でした。
そんなこともあり、社会人1年が終わる頃、ビザの期限が切れたのを機に帰国しました。
コーディネートの仕事に対し果たしてやりたいことなのかという疑問があったし、日本での可能性を試してみたかったというのもありました。

 

日本でドキュメンタリーの老舗に入社、監督作品も制作

前原:アメリカ生活は大変だったけど、よく切り抜けてきましたね……!
日本に戻って来てからのキャリアについて聞かせてください。

河合:ドキュメンタリー映画製作の現場でADとして働きました。
2000年代初頭の日本の映像技術はフィルムやビデオテープの時代からデジタルデータに移行する過渡期。
アメリカでデジタルのノンリニア編集ソフトを使いこなしていた私は制作の現場で即戦力として重宝してもらえました。
その頃、ドキュメンタリーの老舗と言われる映像制作会社グループ現代で関わった作品が、鎌仲ひとみ監督の『六ヶ所村ラプソディー(2006年)』。
私は助監督をやらせてもらい、2年間青森六ヶ所村に通い詰めて核の再処理工場の建物の撮影や、六ヶ所村の人々の生活に密着して取材を行いました。
原発で生きるのか農的な生活で生きるのか、村の人の選択に焦点を当てた作品ですが、テーマは「日本のエネルギーをどうしますか?」という問いかけなんです。
まだ福島原発事故が起こる前、原発がメディアで取り上げられることはほとんどなかった時代です。
この問題提起の意味はすごく大きく、そしてドキュメンタリー作品が社会に大きな影響を与え得るということを目の当りにした仕事でした。
その後、環境テレビトラストというNGOでは環境問題や公害を取り上げた映画や映像作品の制作に携わりました。
そんな中監督として、アジアでイネを枯らす害虫ウンカとその被害を食い止めようとする生物学者や農家の奮闘を描いた『ホッパーレース ~ウンカとイネと人間と~』(※7月7日に飯能にて上映予定。詳しくはこちら)を撮りました。

 

前原:ちょっと聞いてみたいことがあって、そういう社会問題・環境問題に関する作品を作る時って、作る側はどんな姿勢で作っているのでしょうか?
つまり、どちらかの肩を持っているというような意識はあるのか? ということなのですが……。

河合:ニュースや報道って客観性や中立性が求められることがありますよね。
でも、ドキュメンタリー、特に環境をテーマとした作品では私は中立でなければいけないとは思っていないし、それは難しいことだと思います。
中立であるということよりも、物事をいろいろな角度から見た上で、制作者の価値観を提示することが大切なんじゃないでしょうか。
聞きなれない言葉かもしれませんが、「アドボカシージャーナリズム」という言葉があります。
環境報道ではよく使われる報道手法ですが、対立する価値の内からある価値を選択し(※)、それを 擁護するための報道のことを言います。
私がドキュメンタリーを作る時は自分が訴えたいメッセージや価値観を視聴者に伝えるためにいろいろな角度から物事を見てみるという姿勢を忘れないようにしています。
ただし、取材をしている過程で色々な実情を知り学んでいく中で自分の意見が揺らぐこともありますし、始めから「絶対にこうだ!」と決めつけて取材することはありません。
そして自分の主義主張を視聴者に押し付けるのではなく、ドキュメンタリー作品を通じて視聴者に考えてもらう、あくまでも問題提起をするものだと思っています。

※引用:「環境ジャーナリズムとサスティナビリティ意識」 原剛『アジア太平洋討究』No.10(March2008)

前原:多角的に見るということは、『六ヶ所村ラプソディー』だと具体的にどういうことだったのでしょうか?

河合:鎌仲監督は日本が原発をエネルギー源として頼ることに将来性がないと考えており、私も同感だったけど再処理施設で働いて生計を立てている人たちの意見や生活も描くようにしていました。

前原:河合さんの監督作品『ホッパーレース』でもその姿勢を垣間見ることはできますか?

河合:私が監督した『ホッパーレース』でも、「科学者」「農家」「ウンカ」という3つの目線から問題を描いています。
この映画のテーマは生物の多様性。
人間の育てたイネがあってウンカがいて、他の昆虫もいて、絶妙なバランスで成り立っている世界に興味を持ってもらえたらと作った作品です。
私は、ホッパーレース撮影後、生物多様性をもっと知りたくなり、国際連合大学大学院の生物多様性学科でも勉強しました。
世界的には環境問題といえば気候変動が注目されがちですよね。
CO2という一つの明確な尺度で測れるから分かりやすいと言えばわかりやすい。
本当はそんなに単純なものでもないのだけれど。
だけど、生物多様性はもっと複雑でいろいろな要素が絡んでくるし、経済価値としてなかなか置き換えられないからビジネスにもなりにくいんですね。
お金にならないと人間なかなか本気で取組めないのは残念ですが。
でも、生物多様性って決して難しくはないし、映画を見てもらえば私たちにとってとても身近なテーマであることが分かってもらえると思います。

 

難病を患い所沢へ戻る。グルテンフリー菓子との出会い

 

前原:そんな、世界を飛び回っていた河合さんが所沢で活動するようになったのはどうしてですか?

河合:映像の仕事をしながら大学院に通っていた頃、クローン病という難病を発病してしまったんです。
小腸の病気で自己免疫疾患が起こります。
花粉症と同じで、アレルギー反応のようなもので何かしらの原因で腸の炎症を起こしてしまう病気と思ってください。
その病気がきっかけで家族の住む所沢に戻ることにしました。
2ヶ月絶食していたこともあり、去年には手術もして、動けるようになったのはここ1年くらいです。
今はありがたいことに免疫抑制剤が効いています。
農薬に頼らず田んぼの生物多様性を豊かにすること、つまり田んぼの免疫機能を高めることが大切だと映画で訴えてきた私自身が、薬で自分の免疫機能を抑制しなければならない状況に陥るとはなんとも皮肉なことですがね。
でも、薬だけに頼らず食べ物に気を付けたりライフスタイルを見直したりと、健康に関しても総合的なアプローチを取るようにして、できるだけ体に負担をかけないようにしています。

 

前原:なるほど、だからグルテンフリー菓子を作っているんですね。

河合:そう、小麦粉に含まれるグルテンが消化に負担をかける場合があるようです。
私はグルテンフリーの食事を実践してみて消化に負担がかからなくなったと実感したんです。
でも、改めて考えると私が大好きなうどん、パスタ、パン、ラーメン、ケーキにクッキーに世の中の多くの食べ物に小麦粉が使われているんですよね。
小麦粉を避けようとすると食べられるものがなくなってしまいました。
それで自分で作るしかないと思ったんです。
そして周りを見回すと、同じように、卵、牛乳などにもアレルギーがあり困っている人たちがたくさんいることを知りました。
だからこそ、それらを使わないお菓子を作ろうと思いました。
でも、味には妥協しませんね。
小麦粉でできたものよりもむしろおいしい商品を作ることをモットーとしています。
私も自称グルメ……、いやただの食いしん坊だからなのかも知れないけど(笑)。

 

もう少し付け加えると、環境のことを勉強するとやはり「食」にいきつくんです。
これまでの経験でも、例えば六ヶ所村で有機農業をやっている人の野菜を食べたとき、生態系バランスが保たれている場所で作られたものは生命力にあふれていておいしかったんです。
私は飲食経験はほぼゼロだけど、自分の舌で感じたことを大事にして、環境に負担のかからない、体に負担のかからない、食べる人も安心できて、おいしいと感じてもらえるものを作っていきたいと思っています。

 

前原:世界を回ってみて、今、所沢という場所や人を、どう感じていますか?

河合:所沢もすてたもんじゃないな、と(笑)。
実は帰国後、下町や商店街にあこがれて谷中に住んでいたこともあるんだけど、そういう町の温かさみたいなものは、所沢にもあるな、と。
行動すれば、つながりはできていくし、面白いことをやっている人、先進的な人もいる。
何かやりたい、と活動していると、一緒に協力してくれたり応援してくれる人たちも大勢いて恵まれていると思います。
今は、自分が生きていきたい環境は自分で作ろうと思っています。
近い将来、所沢に工房を作るつもり。
もちろん、これまでの映像作品も皆さんに見てもらいたいと思っているので、上映してくれる団体さんも募集しています!

 

前原:所沢生活、面白くしていきたいですね! 今日はありがとうございました。

 

☆イベント参加など、河合さんのグルテンフリー菓子に関する情報はこちら☆

▶Facebook:Commons Kitchen
▶instagram:commons_kichen

 

『ホッパーレース ~ウンカとイネと人間と~』上映会情報

【日時】
2019年7月7日(日)
14:45開場/15:00〜16:00映画上映/16:00〜監督トーク、Q&Aセッション/~16:30終了
【上映会場】
スタジオくら 埼玉県飯能市本町4-4
【参加費】
1,000円
※申込方法など詳しくは▶こちらのページをご覧ください。



記事の執筆者プロフィール

前原 麻世 Asayo Maehara
前原 麻世 Asayo Maehara
所沢在住5年ほどのライターです。住まいは長野出身→沖縄→東京→所沢。 カフェや、子連れで行ける音楽イベントが好きです。

頂いた応援メッセージ

  1. はるかの母の小林信子(横浜市在住)です。はるかの保育園時代からの友達である樹香ちゃんがこんな活動をされていることを、初めて知りました。はるかからチラシをもらっていたのですが、ホッパーレースは、見そびれてしまいました。グループ現代のビデオは、在職中、教材としていろいろ使わせていただきました。
    私も昨年から、アレルギー症状と思われる皮膚炎に悩まされていますが、北里大学漢方外来で、漢方薬を処方してもらい、9カ月くらいかかって、やっと首から胸にかけての肌の赤みが取れましたが、老人性イボが多発し、イボ蛙のようになっています。はるか達がまた来年帰国した折には、ぜひ横浜に遊びに来てください。体に気を付けて、頑張ってね。

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