渋沢栄一ゆかりの「旧黒須銀行」【入間市】
埼玉県の偉人渋沢栄一ゆかりの黒須銀行が「道徳銀行」と呼ばれたわけ
国道299号線、入間市の鍵山横断歩道橋付近に並ぶ古い建物。
▲入間市の産業遺産。左が「旧黒須銀行」右が「繁田(はんだ)醤油」です。
▲「旧黒須銀行」
「旧黒須銀行」は明治時代に建てられた貴重な土蔵造りの銀行建築。
実は、渋沢栄一にゆかりの深い近代遺産・金融遺産なのです。
2021年3月13日(土)、14日(日)に令和2年度最後の特別公開が行われました。以前の公開日に撮影した写真も交えてご紹介します。
2021年2月に放送が始まったNHK大河ドラマ「青天を衝け」。ご覧になっていますか?
令和6年度、2024年に1万円札の肖像画に採用されたことでもますます注目されているのが埼玉県の偉人渋沢栄一。
渋沢栄一は500社もの企業の設立・運営に関わりました。直接関わった銀行で今も残っている明治期の建物は全国で5つしかありません。
横浜正金銀行本店
旧第五十九銀行本店本館
旧黒須銀行
旧秋田銀行本店本館
(古い順)
とても貴重なものがこんな身近に残っているのです!
実は以前訪れた時は、貴重な建築物だなあ、とは思いましたが…撮影を楽しんでおしまいにしてしまっていました。
コロナ禍を経験している今、この黒須銀行を是非紹介したいと思い、再び訪れました。
では内部に入ってみましょう。
▲まず検温と手指消毒を行なって来場者記録表の記入をしました。
▲1階の様子
銀行のカウンターがあり、裏に古い道具やパネルの展示がされています。中に入ることができて、係の方に説明をしてもらうことができます。
▲2階の様子
左に見えるのは「撮影スポット」です。右側はこの建物の歴史のパネル展示です。
▲撮影スポット
▲パネル展示の様子
建物の歴史について一部紹介いたします。
埼玉県の偉人渋沢栄一ゆかりの黒須銀行が「道徳銀行」と呼ばれたわけ
渋沢栄一と黒須銀行
現在の埼玉県深谷市に生まれた渋沢栄一の家業は藍玉(あいだま)でした。
藍の葉を収穫して乾燥させた後、蔵の中で寝かせ、これに水を打って良く湿らせながら上下に撹拌し、約75 – 90日間発酵させたものを再び乾燥させると、無色の物質であるインディカンが酸化されて青色のインディゴへと変化して、その色が濃くなることで黒色の土塊状の物質が出来る。これを蒅(すくも)と呼ぶ。蒅の状態でも染料としては十分使用可能であったが、運搬に不向きであったために後にこれを臼で突き固めて乾燥させて扁円形の小さな塊にすることによって運搬を容易にしたもの。
渋沢栄一は藍玉で商売を学びます。商いのために八王子方面へ行く途中入間市の扇町屋などにもきていたそうです。
その時、黒須村の名主役(※地方役人)であった繁田(はんだ)家でお茶を飲んで休んでいたのだとか。(1枚目の写真の右の方です。)
そもそものきっかけは「うちこわし」での理不尽な思い
渋沢栄一の従兄弟であり先生でもある尾高惇忠から漢学を少し教わったとも言われている繁田満義(はんだみつよし)さん。
武州世直し一揆で、先代から引き継いで採算がとれるようになっていた醤油蔵の諸味桶が壊されるなどのひどい被害に遭い、とても悔しい思いをしたそうです。
「日頃勤倹をあざけって遊んでいるのに、ひとたび凶作に遭えば他人が勤倹で作った財産を敵視して、こんな狼藉におよぶとは言語道断だ!」と思ったものの、二宮尊徳(金次郎)のことを尊敬していたので「彼らに普段から勤倹が大事なことを納得させて、方法を設けて実行させたら、暴徒の仲間に陥らずに済んだはずだ。憐れむべくして、憎むべからずとは彼らのことだ」と思い直し、少しずつでもお金を貯めるよう教育を始めます。
▲(2018年11月撮影)
人々のお金を少しずつ集めて積み立て、商売で必要な時にお金を貸す、…道徳をもって勤倹貯蓄し(※よく働いて倹約し、お金を貯めること)恒産(※一定の安定した財産・生業)の基を作ろうという「黒須相助組合」を設立し、その積立金を基に地元の人たちと銀行を作ろうと計画します。
そんな時、渋沢栄一が飯能戦争で亡くなった養子平九郎の墓参りの途中に繁田家に寄りました。銀行の計画を相談したところ、賛成して顧問になってもいいということになり、その後渋沢栄一のアドバイスを取り入れて1900(明治33)年、豊岡町黒須で創業。
黒須銀行は、土地や家といった不動産だけでなく繭や生糸を担保にして融資をしていました。
▲担保の繭を保管していた倉庫(土蔵)の壁(2018年11月撮影)
「株主が道徳の会員であること」「資金が道徳の結晶であること」「資金を道徳的に運転すること」によって、世間から「道徳銀行」と呼ばれた希にみる会社でした。
以前訪れた時には「すごい話だなあ。」とは思ったのですが…、2020年から新型コロナ感染拡大が広がって理不尽な思いをしている人が多くなった中で改めてこの話を目にすると、感じ方が大きく変わりました。
▲一階の展示物。渋沢栄一書「道徳銀行」写真パネル、黒須銀行の名前入り風呂敷、銀行で使われていた台。
「道徳銀行」の書は、黒須銀行の設立に助言し、顧問にもなった渋沢栄一が、大正2年、創立15周年にあたりこの書を揮毫(キゴウ)して(※腕を振るって書いて)贈りました。
黒須銀行は1922(大正11)年、武州銀行に合併し、埼玉りそな銀行のルーツの一つになりました。この書は現在、埼玉りそな銀行本店(さいたま市)の応接室に掲げられています。(入間市博物館ALITに複製がありますよ!)
▲「信用は資本なり」(2018年11月撮影)
こちらは銀行で得意先に配っていたそろばんの裏面です。
▲黒須銀行の行章
「道徳」「信用」という清潔感のある言葉に大きな力を感じます。
建物のうつりかわり
現在残っている店舗は1909(明治42)年に建てられたもの。銀行は合併し、1960(昭和35)年まで埼玉銀行豊岡支店として使われていました。
▲豊岡支店の名残(2018年11月撮影)
1965年から1994年までは、郷土民芸館(入間市博物館の前身)でした。
明治期の地方銀行に特徴的な土蔵造りで、歴史的にも貴重なことから1990(平成2)年に入間市の指定文化財になりました。
実はこの建物は築100年を越えていて、かなり老朽している上、これまでの改修で建てた当時とは随分姿が変わってしまっているそうです。
例えば屋根瓦。
▲1階と2階では随分違いますね
元々は一階の屋根に使われている「小谷田(こやた)瓦」と言う、地元の良質な粘土を原料として作られた高品質なものが使われていました。かつて入間郡・多摩郡の建物で一種のステータスシンボルのように用いられてましたが、現在では作られていません。
▲黒須銀行の裏側にあった土蔵は全て解体されています。
復元する際に、この土蔵で使われていた小谷田瓦を利用する予定だそうです。
2020年10月に「旧黒須銀行保存活用基本計画」が完成し、建物の復元・活用方針が具体的にまとまり、渋沢栄一の1万円札が発行される2014年頃には、旧黒須銀行を昔の姿に戻せるように計画が進んでいます。
2021年4月『入間市文化財保存活用基金』が始まります!
▲黒須銀行の裏側
入間市民や入間市を訪れる人々に入間市の歴史・文化を感じることができる貴重な文化財を将来にわたり大切に保存していくため、また魅力ある街づくりにつながる活用を行なっていくために、事業に必要な資金を積み立てる基金が設置されます。
基金は次のような事業に役立てられます。
⑴「旧石川組製糸西洋館」の保存整備事業
⑵「旧黒須銀行」の復元改修事業
⑶その他の入間市指定文化財等の保存活用事業
1.募金
入間市博物館、旧石川組製糸西洋館、旧黒須銀行」などに募金箱を設置しています。入間市教育委員会博物館の窓口でも対応しています。
※一般公開やイベントの実施日のみ
日程は、入間市博物館ホームページでご確認ください。
【入間市博物館ALIT】
“https://www.alit.city.iruma.saitama.jp
2.ふるさと納税
【入間市ふるさと寄附金】
http://www.citydo.com./furusato/official/saitama/iruma/
※寄附金の使い道を選ぶときに「文化財保存活用基金」を選択してください。
旧黒須銀行のオリジナルグッズがかわいい♡
▲今回対応してくださった入間市博物館ALIT学芸員の平田光洋さん
…それにしても、並んでいるオリジナルグッズがめちゃめちゃ可愛いです。
▲旧黒須銀行オリジナル手ぬぐい
▲旧黒須銀行オリジナル缶バッジ
どういう作家さんの作品なのかお尋ねしたところ、その答えは…「梅津さん」。梅津さんってまさか…⁉︎
なんと!二階で建物のことを詳しく教えてくださった方でした。
▲入間市博物館ALIT学芸員の梅津あづささん。お召し物は入間市の「野田双子織」を再現した物だそうです。
▲ラッピングも可愛いです♡右側の本の装丁デザインもされているそうです。
新型コロナ感染拡大により令和2年度の旧黒須銀行の特別公開は4回でしたが、通常は6回開催されています。今後の公開日は入間市博物館アリットホームページなどでご確認ください。
施設詳細
旧黒須銀行
【所在地】入間市宮前町5-33
【アクセス】西武池袋線 「入間市駅」から徒歩10分
見学
外観の見学可。内部の見学は公開日に限ります。
入間市博物館
HP:https://www.alit.city.iruma.saitama.jp
04-2934-7711
「青天を衝け」関連番組放送予定
NHK大河ドラマ「青天を衝け」関連企画「青天を歩け!」
「ひるまえほっと」
2021年3月15日(月)〜第1シーズン放送
G (月)午前11時5分〜(関東地方)
(火〜金)午前11時30分〜(関東甲信越)
「たっぷり関東NHK」で放送予定
G 2021年4月11日(日)午後1時5分〜(関東地方)