狭山丘陵の生きものたち(夏編) -比良の丘周辺の花々と虫たち


所沢の夏。まだまだ暑い日が続きそうですね。
所沢市内で最も標高の高いところは155mある堀之内の比良の丘ですが、8月下旬、わずかな涼しさを求めて、さいたま緑の森博物館の観察会の仲間と狭山丘陵にある比良の丘周辺を訪ねました。

永石文明

夜明け前から東を向いているヒマワリの花

比良の丘の前に広がる農地では、ヒマワリの花が今年も咲いていました。ヒマワリの花は道とは反対の東の方を向いているので、花の背側から撮った写真になりました。背側からでも、黄色の花びらと緑色の萼片とのコントラストがヒマワリらしさを醸し出してくれます。
ヒマワリの芽や蕾は成長に伴って太陽の光の方向を向く向日性があるので、若い枝先と蕾のときに限り、太陽光が出始める東を向くようになります。でも方角が固まるのは蕾のうちなので、花が開いたあとは一日中同じ東向きのままになります。ヒマワリの花は、夜明け前から東を向いていることでいち早く朝日を浴び、花の温度を上昇させ、早朝から花を訪れる昆虫を呼びよせています。
遠くの背景は三ケ島湿地をはさんで狭山丘陵の尾根が東西に連なっています。


▲ヒマワリの花(キク科)

ミズタマソウのかぎ状の白い毛

夏の路傍の花といえば、ミズタマソウ。2裂した花びら2枚、雄しべ2本の2数性の花。それに、花びらの下につく子房(しぼう)にカギ状の白い毛がたくさんついているのが、この花の魅力です。雨の降った後、白い毛に水滴がついていると、花がより引き立ちます。白い毛は子房が熟して果実になっても白いままで、引っ付き虫のように動物などにくっついて運ばれるのに役立ちます。花を見ていると、アリ(アミメアリ)がよくやってきます。ミズタマソウの蜜はアリに好まれるようです。


▲カギ状の白い毛が目立つミズタマソウ(アカバナ科)

所沢の由来花、トコロ(野老)の花

森の中を歩きながら、甘い匂いが漂ってきたら、それはきっとオニドコロの雄花が咲いている証拠です。ツル植物のオニドコロは、別名トコロ。牧野富太郎は、トコロ(野老)の名の由来は地下茎にはひげ根が多く、さらに曲がっている様子を老人に見立てたものだろうと説明しています。葉は茎に互い違いに付く互生で、太目のハート形をしています。オニドコロの雄花の花びらは淡黄色でとても小さく、6つに分かれ水平に開きます。


▲オニドコロ(トコロ)の雄花(ヤマノイモ科)

トコロに似ているが、違う植物、ヤマノイモ

ヤマノイモも同じツル植物です。葉は茎の同じところから2枚ずつ出る対生で、葉の形は細めのハート型です。根茎は別名ジネンジョと呼ばれ、食用にされますね。雄花の花びらは白色で6つありますが、互いにくっついて丸まっています。
ヤマノイモやオニドコロの花を見るには、堀の内にある早稲田大学研究棟を囲むネットフェンスにからまった植物を探してみるのがもっとも確実です。


▲ヤマノイモの雄花(ヤマノイモ科)

黒いチョウ、ダイミョウセセリ

翅(はね)を開いて止まるのは、ダイミョウセセリ。色は黒褐色で地味ですが、これでも立派な蝶です。東日本のダイミョウセセリは後翅(こうし)は一様に黒褐色ですが、西日本のダイミョウセセリは後翅にも白色の帯があり、同じ種でも東と西で模様が異なります。幼虫はヤマノイモやオニドコロの葉を食べて育ちますが、成虫はいろいろな花や糞に訪れます。


▲黒褐色の蝶、ダイミョウセセリ(セセリチョウ科)

知っておきたい危険な虫、キイロスズメバチ

夏に気を付けたい昆虫。キイロスズメバチ。胸の黒い三角模様と、対になった黄色い二つの円い紋が特徴のスズメバチです。スズメバチの中でも攻撃的な種類なので、もし群れていたり、巣があったらぜったい近づかないのが得策です。写真は1匹だけサルトリイバラの葉の上で休んでいたので、撮らせていただきました。


▲胸の模様が特徴のキイロスズメバチ(スズメバチ科)

馬の歯落とし、センニンソウ

気をつけたい植物、センニンソウ。林の縁や土手に生育するツル植物です。白い花は花びらではなく、萼片(がくへん)です。十字型に萼片が広がるのが特徴です。花はきれいですが、有毒植物です。センニンソウの別名はウマノハオトシ(馬の歯落とし)とかウシクワズ(牛食わず)と呼ばれるほどですから、馬も牛も避けているようですね。全草にプロトアネモニンと呼ばれる有毒成分を含み、淡黄色の葉や茎の汁が皮膚に付くと、刺激が強くて水疱を起こします。 葉や茎をあやまってちぎらないようにしましょう。


▲センニンソウの白い花(キンポウゲ科)

比良の丘へのアクセス

バス:小手指駅南口バス停乗車、堀之内あるいは糀谷バス停下車。バス停より徒歩約20分。
車:所沢市糀谷の八幡神社前、緑の森博物館駐車場。徒歩約20分。


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nagaishi

所沢市に引っ越してからすぐに『所沢市の自然』(所沢市発行)の企画に参加させてもらったのが最初の所沢との関わりです。市内をくまなく回って撮影したり原稿を書いたりするうちに所沢の自然の魅力にはまりました。自然が好きで、狭山丘陵自然史研究会では雑木林や湿地、川の生物の調査研究のほか、大学(東京農工大学・立教大学)では自然環境の保全や自然保護文化論を担当しています。趣味の自然への旅が高じて毎日新聞旅行ではネイチャーガイドをしています。

頂いた応援メッセージ

ワクワクして読ませていただきました!夏の花、ミズタマソウを見てみたいので早速探しに行って見ます。
2023-08-30 13:23:38

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