狭山丘陵の早春編(3月上~中旬)-春いちばんに咲く植物、里山の早春~


所沢市の南西部に位置する狭山丘陵には、雑木林や草地、茶畑などの景観をもつ里山があります。そこでは毎年、春一番に咲くさまざまな花々が見られます。今回は、所沢市の三ケ島・堀之内、糀谷にある雑木林の縁や畑の畔などで早春に限って見られる花々を紹介します。

永石文明

東欧ではヨーグルトの木、サンシュユ

小手指駅南口から宮寺行きの西武バスに乗車し、堀之内バス停で下車。金仙寺を抜けて緩やかな坂道を登っていくと、上に伸びた枝に鮮やかな黄色の花が咲き誇っていました。

サンシュユです。

早春のうららかさを感じさせてくれる小高木です。漢字で書くと、山茱萸(さんしゅゆ)。原産地の中国では熟した果実の種子を乾燥させたものが薬として使われている薬用植物です。日本では、別名、ハルコガネバナ(春小金花)と呼ばれ、俳句の世界では春の季語になっています。

一方、東欧では、同じ仲間にセイヨウサンシュユがあり、乳酸菌を持つヨーグルトの木としても知られています。伝統的なヨーグルトはセイヨウサンシュユの枝を、温めた羊のミルクに浸し、固まったものをスターター(純粋培養物)として使い、ミルクを発酵させて作られていました。乳酸菌は、250種以上が発見され、自然界に広く生息し、植物の表面や動物の体内、土壌などに分布しています。セイヨウサンシュユの枝葉にはヨーグルト生成に適したブルガリア菌などの乳酸菌が含まれているようです。

なお、国内で植栽されているサンシュユの枝葉を使っても発酵し固まりますが、雑菌も多く含まれているので、食べるのはやめておいた方が無難だと思います。


▲淡黄色の小さな花をびっしりつけたサンシュユ(ミズキ科)

鳥のウグイスと関係の深い、ウグイスカグラ

早春に葉が芽吹くと同時期に淡紅色の花を咲かせる低木です。5裂した漏斗状の花冠(かかん)。

日本特産で、初夏に赤く熟す野茱萸(のぐみ)として昔より親しまれていました。ウグイスカグラは漢字で書くと、鶯神楽。

名の由来は、ウグイスが鳴き始める早春に咲く花という説や、ウグイスの踊りはねるような枝上の動きを神楽踊りに見立てたという説、この低木がウグイス「隠れ」あるいは「(人によるウグイス)狩り場」が「カグラ」に転訛した説などがあり、本種も定説はありません。

しかし、江戸中期の本草学者が著した『大和本草』には「ウクイスノ始テ啼時ニ此花モサク故ニ名ツケシニヤ」とあります。確かにウグイスは春先に鳴き始め、低木の藪の中を飛び跳ねるように動き回るので、昔の人々が親しみを込めて名付けたのかもしれません。


▲ウグイスのさえずり出すころ咲く、ウグイスカグラ(スイカズラ科)

ウサギの耳のような花弁、アオイスミレ

狭山丘陵で最も早く咲くスミレです。漢字で書くと、葵菫。やや湿った林の縁で見られます。

名の由来は、アオイスミレの葉の形が、徳川家の家紋に使われている「葵」に似ているところから。

スミレは花弁(花びらのこと)が5枚あります。上に付く2枚の花弁が上弁(じょうべん)、左右に開く花弁が側弁(そくべん)です。

アオイスミレは、2枚の上弁がウサギの耳のように立ち上がり、2枚の側弁が前ならえのように前へ突き出すのが特徴です。それに花弁が少し捻じれています。ほとんどのスミレの葉は夏には大
きくなりますが、特にアオイスミレは別名ヒナブキと呼ばれるほどで、夏には春の葉の2倍ほどある、径6~7㎝の葉になります。


▲狭山丘陵で最も早く咲くスミレ、アオイスミレ(スミレ科)

淡い桃色から紅紫色までの花の色、コスミレ

陽当たりのよい農道の脇で見つかるスミレです。コスミレは漢字で書くと、小菫。

花の色は桃色や紫色をベースとして、花弁には紫色の筋(すじ)があるのが特徴です。

葉は長めで先は尖り、葉の裏面は淡紫色をしています。なお、コスミレは花の色が淡い桃色から紅の濃い紫色まであり、色の変異に富むことも特徴です。

いつもの狭山丘陵では迷うことはないのですが、他の場所に出かけると、コスミレなのかどうかを見分けるのが困難なスミレの一つです。


▲色の変異の多い、コスミレ(スミレ科)

名の由来は不明、セントウソウ

漢字で書くと、仙洞草(せんとうそう)。

名の由来は、人里離れた仙人の住まいである仙洞(せんとう)の地に生えているとか、退位した天皇の呼び名を仙洞(せんとう)と言い、この草が京都の仙洞御所(せんとうごしょ)に生えていたとか、他の花よりも早く咲くため先頭(セントウ)から来たとか、名前の由来にいろいろな説がある植物です。

牧野富太郎博士は名の由来は不明と記しています。日本固有の植物でもあるのですが、名の由来がそれぞれ全然違っていて、不思議な植物です。


▲小さな白い花を咲かせるセントウソウ(セリ科)

春の七草、「仏の座」のコオニタビラコ

コオニタビラコは、漢字で書くと、小鬼田平子。別名タビラコともいい、田んぼで平たく葉を広げている小さな草からきています。

水田のやや乾いたところに生えています。
切れ込んだ羽状の葉と黄色の花が特徴です。

ところで、食用とされる春の七草は、「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」ですが、七草の「ほとけのざ」はコオニタビラコをさします。

七草のほとけのざの名の由来は、若い苗のころに葉を放射状に出して地面に張り付いている様子が仏の蓮華の座に似ていることからきているそうです。

別の種類に、紫色の花を咲かせるシソ科のホトケノザがありますが、ややこしいことに、これは春の七草ではありません。こちらは苦くて食用にならない植物です。


▲春の七草の一つ、コオニタビラコ(キク科)

今回ご紹介した場所へのアクセス(公共交通機関利用の場合)
・所沢市三ケ島堀之内公園、比良の丘周辺
アクセス:小手指駅南口発~堀之内バス停下車下車(徒歩約10分)
・さいたま緑の森博物館 糀谷八幡湿地
アクセス:小手指駅南口発~糀谷バス停下車下車(徒歩約10分)


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nagaishi

所沢市に引っ越してからすぐに『所沢市の自然』(所沢市発行)の企画に参加させてもらったのが最初の所沢との関わりです。市内をくまなく回って撮影したり原稿を書いたりするうちに所沢の自然の魅力にはまりました。自然が好きで、狭山丘陵自然史研究会では雑木林や湿地、川の生物の調査研究のほか、大学(東京農工大学・立教大学)では自然環境の保全や自然保護文化論を担当しています。趣味の自然への旅が高じて毎日新聞旅行ではネイチャーガイドをしています。

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