三世代で行きたい!伝説の呼び屋が贈るハッピーなフェスが日本音楽シーンの聖地で【稲荷山公園】


17年の時を経て狭山で再開する「ハイドパークミュージックフェスティバル」

狭山市稲荷山公園で2023年4月29日(土)・30日(日)に、「ハイドパークミュージックフェスティバル」。仕掛け人は自身も狭山市在住で「伝説の呼び屋」として音楽ファンに知られる狭山市在住の麻田浩さんです。開催の経緯や見どころを伺いました。

▲公式サイト「Photo Gallery HMF 2005 and 2006」ページより

麻田浩さんプロフィール

1944年横浜生まれ。1963年明治学院大学入学後、マイク真木らとモダンフォークカルテット(MFQ)を結成。カレッジフォークを代表する人気バンドになる。’65年MFQでフェス出演のために初渡米。67年には単身でアメリカ各地を回り、ボブ・ディランやジョニ・ミッチェルなど数多くのコンサートを観る。1976年トムス・キャビンを設立しデビッド・グリスマン、エリック・アンダーソン、ニューグラス・リバイバル、トム・ウェイツ等を招聘し始め、現在までトーキングヘッズ、B-52’、ラウンジリザーズ、ラモーンズからダン・ヒックス、ジミーウェッブ、キャレキシコまで日本に多くのアーティストを紹介している。また90年代からNew Music Seminar, SXSWなどの海外フェスで日本人バンドのショーケースJapan Niteをプロデュースし、多くのバンドを海外に紹介している。狭山市在住。

いぶし銀なあの人も、若手のgoodなメンツも!出演者の顔ぶれがスゴイ

「ハイドパークミュージックフェスティバル」がスゴイのはなんと言っても豊富な出演陣を揃えているところです。どの世代の音楽ファンも思わずうなってしまうようなラインナップなんです! 


▲ハイドパークミュージックフェスティバル2023年出演者(公式サイトより)

それもこれも、長年に亘り音楽業界で「呼び屋」として活躍し国内外のアーティストに触れてきた主催の麻田浩さんの尽力によるところが大きいのです。
しかしながらこのイベント、実は運営の多くは地元市民によるボランティアで賄い成り立っているというからオドロキです。
そんな特異なフェス「ハイドパークミュージックフェスティバル」とはどのようなものなのでしょうか?

狭山アメリカ村周辺・現稲荷山公園は日本の音楽シーンの聖地

「ハイドパークミュージックフェスティバル」を語るうえで、最も重要なポイントは会場が稲荷山公園であるということです。この場所には戦時中日本軍の基地があり戦後米軍に接収され、のちに返還され現在では公園として使用されています。米軍時代には米兵が住む住宅が多く建てられそれらは「米軍ハウス」と呼ばれました。米軍撤退後は空き家となり、一般に破格の値段で貸し出されました。


▲現在の稲荷山公園駅

1960年代終わりから70年代、これに目を付けたのがアメリカのサブ・カルチャーを浴びた若手アーティストたち。「日本に居ながらにして、アメリカの暮らしができる」とこぞって移住し「狭山アメリカ村」と呼ばれるようになりました。
当時シンガーソングライターとして活動していた麻田浩さんもその一人。「家賃がとても安く、結婚しここで子育てもした」そうです。


▲Photo by : Kin Ishimori

はっぴいえんど解散後ソロ活動に移行していた細野晴臣さん、大滝詠一やサディスティック・ミカ・バンドのレコードジャケットを制作したデザイン工房WORKSHOP MU!!、ロック・R&B・ゴスペルとジャンルを横断したミュージシャンの小坂忠さんなど、日本音楽シーンに大きな影響を及ぼす面々が揃います。彼らは、時に遊び、時に喧嘩し、友情をはぐくみながら作品を生み出していったのです。
つまり、この狭山アメリカ村周辺・現稲荷山公園は、日本の音楽シーンを語るうえでも意義深い場所・聖地なのです。

自転車仲間とのファミレス雑談から生まれた「音楽フェスで公園を守ろう」

さて、地域住民はこの様子をどのように見ていたのでしょうか? 2000年代に入り狭山アメリカ村の盛り上がりから30年の時を経て、麻田さんは地元で参加している趣味の自転車クラブで、仲間との会話からそれを知ることになります。自転車クラブの若手メンバーがこう言ったそうです。「子どもの頃、親からあの辺には近づいちゃダメって言われていました。」
地域住民にしてみればアメリカ村は一見「派手な格好で髪の毛を伸ばした輩がたくさんいるアヤシイ場所」だったわけです。とはいえ、子ども達が全く何も知らなかったわけではなく、そのアヤシイ人たちが音楽業界に影響を及ぼすアーティストだったということは何となく知っていたようです。


▲狭山市稲荷山公園は春には桜の名所となる市民憩いの場

そして麻田さんの自転車仲間はこう続けました。「そんなアーティストの方々に、改めてここに戻ってきてもらって、ライブをやってもらうことはできませんかね?」
その話を受けて、麻田さんは細野晴臣さんや小坂忠さんにライブ開催の話を持ち掛けます。そもそも、以前よりイギリス・ロンドンにある公園、ハイドパークで行われる野外音楽フェスティバルになぞらえて稲荷山公園で音楽イベントをやりたい、という話は麻田さん達の間でも話題に出ていました。

さらに、麻田さんはじめとする自転車仲間の面々や地元住民は、桜の名所でもある稲荷山公園の桜の老齢化(桜の木の寿命は約60年)を危惧していました。「市民憩いの場を守りたい」という思いから、イベントを行い出た収益を寄付し修繕に充ててもらおう、という案も出ました。

こうして狭山で地元を愛し、音楽が好きな住民により、ほぼ手弁当で野外音楽イベント「ハイドパークミュージックフェスティバル2005」が開催されることとなったのです。

大雨に見舞われたがアノ人の登場時に雨が上がった伝説の2005年開催時

「狭山で生まれた音楽をこの地にまた呼び戻したい」そんな思いで開催された「ハイドパークミュージックフェスティバル2005」には、細野さん、小坂さんのほか趣旨に賛同した佐野元春さんや森山良子さんらも参加しました。今を時めくJ-POPの旗手・星野源さんも当時の所属バンド「SAKEROCK」でギタリストとして参加している。
大雨に見舞われたが、細野さんの登場する頃に雨が上がり、会場は大いに盛り上がりました。
細野さんは歌を歌い、そして「30年前にここで、家賃3万円でアメリカっぽい家に住んでいた。その家は今はもうないけど、この公園はとてもいい公園。ここで音楽をやれるというのはこの公園も喜んでいると思う、皆さんのおかげです」と話しました。


▲公式サイト「Photo Gallery HMF 2005 and 2006」ページより


▲公式サイト「Photo Gallery HMF 2005 and 2006」ページより

小坂忠さんも「麻田さん、このフェス最高だね、またやろうね!」と麻田さんに話したそうです。
しかしながら、翌年第二回の開催となった「ハイドパークミュージックフェスティバル2006」では機材やセットにお金をかけすぎ赤字に。さらなる開催を断念せざるを得ませんでした。
「いつかまたこの地で『ハイドパークミュージックフェスティバル』を再開させたい。」
麻田さんの胸にはその思いがずっと残っていました。

盟友の死に、ハイドパークミュージックフェスティバル再開を決断

転機となったのは2022年。以前より闘病生活を送っていた小坂忠さんが4月29日に亡くなったのです。
このことが、麻田さんを奮起させるきっかけとなりました。小坂さんを弔い、トリビュートをなんとしてもやらなければ、という切なる思いを抱えた麻田さんは、各所でスポンサーを募り、クラウドファンディングでもフェス開催への応援を呼び掛け、開催への道筋を立てました。
そしてその思いは実を結び、小坂忠さんの一回目の命日となる2023年4月29日、「ハイドパークミュージックフェスティバル2023年」の1日目が開催されることとなりました。


▲公式サイト「Photo Gallery HMF 2005 and 2006」ページより

出演者も観客も、ベテランと若手が混ざる場に

麻田さんに「ハイドパークミュージックフェスティバル」のみどころを伺いました。

一つには、世代を越えて楽しめる場であるということ。一般的なフェスイベントでは、例えば若い人が楽しめるアーティストばかりが出演するといったことはよくあること。そうではなく若い人も、シニア世代も、他世代が楽しむ音楽を聴く機会にしたい、というのが麻田さんの考えです。そのため、出演者は麻田さんの目利きで、若手からベテランまで幅広く揃っています。
このことが、観客側だけでなく出演者側にも影響を与えたというエピソードが残っています。実は、2005年開催時、「SAKEROCK」として出演していた星野源さんがリスペクトする細野晴臣さんと出会い、交流に発展しました。その後の2人の関係は皆さんもご存知でしょう。雑誌で長らく連載対談を続け、2018年には星野さんが細野さんをオマージュした作品を発表するなど、親交を深めています。少々大げさかも知れませんが「ハイドパークミュージックフェスティバル」で2人が出会えたことが、星野さんの音楽的命運を握っていたのではないでしょうか。おかげで、私たちも星野さんの彩り豊かな音楽に触れることが叶ったのです。


▲公式サイト「Photo Gallery HMF 2005 and 2006」ページより

もう一つのみどころは、「多彩な音楽を“生”で聞くことができること」です。ライブイベントなんだから“生”は当たり前だ、と言えばその通りなのですが、半ば偶発的に多数のミュージシャンに会えるフェスだからこそ、思いもよらぬ出会いがあるかもしれないのです。麻田さんによると「現代は何かと情報に左右される。生の演奏を体感してほしい」とのこと。自身も20代にアメリカに渡り、前情報なく多くのアーティストの演奏を聴き衝撃を受けた経験のある麻田さんならではの言葉です。
私事ですが筆者はこの言葉を受け、ハイドパークミュージックフェスティバル参戦の際は「極力、予習なしで参加しよう」と心に決めました。思えば、いつからか、ライブ前にそのアーティストの楽曲を「予習」して会場に向かうようになっていました。「予習」するのも決して悪いことではないと思いますが、「アーティストとのファーストコンタクトが生演奏」というのも、あらゆることがネットで知りうることができる時代において貴重な体験なのではないでしょうか。


▲取材中の麻田さん。後姿は筆者とジュースを飲みながら同席していた筆者の娘。麻田さんは子ども達にも優しいまなざしを向けてくれました。西所沢のカフェ「西乃処珈琲」にて

「ハイドパークミュージックフェスティバル2023」は4月29日(土・祝)・30日(日)

都心から西武池袋線で約40分、狭山市稲荷山公園で行われる「ハイドパークミュージックフェスティバル2023」はゴールデンウィークの始めの4月29日(土)・30日(日)の2日間。芝生の公園で音楽を楽しめる最高にハッピーなイベントです! 若手からベテラン勢まで幅広い世代のミュージシャンが登場するので、おじいちゃん・おばあちゃんからお孫さんまで、三世代で来場しても良いかも知れません。小学生以下は入場無料、また埼玉県在住・在学の高校生は生徒手帳提示で入場料が無料に! ぜひ、良質な音楽体験を家族で共有しましょう。


▲写真は左から西乃処珈琲マスター・伊藤さん、筆者、麻田さん、西乃処珈琲プロデューサー七瀬萌さん。西乃処珈琲ではハイドパークミュージックフェスティバル当日まで2005・2006年開催時のパンフレットや新聞記事を展示中です。

 

■イベント詳細


ハイドパークミュージックフェスティバル2023
日時:2023年4月29日(土・祝) ・30(日)
開演:11:00~ (開場 09:00~)
場所:埼玉県狭山市 埼玉県営 狭山稲荷山公園 特設会場
埼玉県狭山市稲荷山1-23-1
アクセス:
◆西武池袋線「稲荷山公園駅」駅を出て道路を渡ればすぐ公園の入り口
◆西武新宿線「狭山市駅」から稲荷山公園駅行きのバス
◆首都圏中央連絡自動車道「狭山日高IC」から車で約3キロメートル

【出演者】

4/29(Sat)
EGO-WRAPPIN’/在日ファンク/笹倉慎介/サニーデイ・サービス/田島貴男(オリジナル・ラブ)/トクマルシューゴ/パスカルズ/ムーンライダーズ/
加藤和彦トリビュートバンド:きたやまおさむ/松山猛/坂崎幸之助/白井貴子/Petty Booka/CHIHANA/佐野史郎/高野寛(G)/澤部渡(G)(fromスカート)/佐藤優介(Key)(fromカメラ=万年筆ほか)/河合徹三(B)/上原ユカリ裕 (Dr)/平松稜大(fromたけとんぼ)
and more…

4/30(Sun)
イーノマヤコ/いーはとーゔ/踊ってばかりの国 /佐野史郎バンド(佐野史郎、森信行、湯川トーベン)/SION with Kazuhiko Fujii/関口スグヤ(ex.KEEPON)/民謡クルセイダーズ/
ハイドパーク・キャバレー・バンド:梅津和時(Sax)/仙波清彦(Dr)/久米大作(Key)/白井良明(G)/早川岳晴(B)/高橋香織(Vl)/渡辺隆雄(Tp)/ 多田葉子(Sax)/ 濱田遼太朗(Per)/ Mutsumi(MC,Dance)/ Snatch(Dance)/金子マリ(Vo) / 上田ズクナシ衣美(Vo)/ 冨田麗香(Vo) /タイロン橋本(Vo)
-ありがとう、忠- 小坂忠トリビュートバンド:Dr.kyOn(Key)/佐藤タイジ(G)/湯川トーベン(B)/小関純匡(Dr)/MONKY(Sax)/YASSY(Tb)/柳田ヒロ/ Vocal:うじきつよし/佐藤タイジ/佐藤奈々子/佐野史郎/鈴木慶一/ダイアモンド☆ユカイ/CHAKA
and more…

▶公式サイト
https://hydeparkmusic.jp/


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