「風景」からあなたは何を感じる?角川武蔵野ミュージアムアマビエ・プロジェクト第四弾 荒神明香さん


究極の素材「造花」1枚1枚で表現する「風景」
それを目にしたとき、あなたは何を感じますか?

新型コロナウイルスの流行の中で注目された「アマビエ」を現代を生きるアーティストに描いてもらおう、という角川武蔵野ミュージアム企画の「アマビエ・プロジェクト~コロナ時代のアマビエ~」。
今回は第4弾作品を手がける、現代アーティストの荒神明香(こうじんはるか)さんに取材しました。
現在、エントランスホールに”色鮮やかな大きな像”《reflectwo》が飾られています。
この作品を目の前にしたとき、あなたの心には何が起こるのでしょうか?
 

▲現代美術家・荒神明香さん

2021年7月29日取材 前原麻世


 

深夜川沿いの散歩……自身が対峙した景色を題材に

――これまでアマビエ・プロジェクトにおいて「アマビエ」そのものを描いたのは第一弾の会田誠さんのみです。第二弾以降のアーティストさんは荒神さんも含め、皆さん「アマビエ」そのものを作品にしている訳ではなく「アマビエ」をご自身なりに解釈した上で作品を作っていらっしゃいますよね。
アマビエ・プロジェクトに参加するにあたり、荒神さん自身は「アマビエ」をどのように解釈したのでしょうか?

荒神さん:
私も、いわゆる「アマビエ」を調べてみたんですが、コロナ禍という大変な時だからこそ感じられるこの世界との密接な繋がりや、そこにみえる死生観のようなところに焦点を当ててみたいと思いました。

この状況を景色として捉えれば、「アマビエ」と私が今まで制作してきた作品《reflectwo》がつながるように思えました。日常のすぐ側に、死の境界線があるということを認識することや、私自身の存在を揺るがすような圧倒的な景色と対峙することは、目の前で起こっていることに「向き合う」ということに思います。
「意味」を超えた、存在感や死生観と対峙したときに現れてきた象徴的なかたちが、「アマビエ」であり、《reflectwo》であるように思ったのです。
 

▲荒神明香《reflectwo》2021年
 
――この作品を見てその方自身の目の前で起こっている風景やその存在感と向き合ってほしいうことなんですね。
やはりこの色鮮やかな造花を使った大きな“像”は、「風景」なのですか?

荒神さん:
そうです。そもそもこの作品《reflectwo》を作ろうと思ったきっかけは、深夜に川沿いを散歩していた時、ピタっと川の流れが止まって、水鏡になる瞬間に出会ったからなんです。
向こう岸がくっきりと水面に映されていて、それが一つの塊として空間にポンと浮いているように見えたんです。それを見たときに「怖さ」や、景色の圧倒的な「存在感」を感じて、思わず首を横にして、横方向だった景色を縦方向に見てみたんです。そうすると、それまでただの景色だったものが、巨大な生物の塊のようにも、巨大なバロック調の柱が空高くまで伸びているようにも見えて。「今、自分が対峙しているものは一体何なんだろう……」と思ったんです。
うまく言葉にできませんが、そこには「景色の持つ存在感と自分自身が対峙している」という感覚が強くあって。その感覚をもとに作品を制作しました。

 

▲無数の花びらが貼り合わせられて作られている。離れて見たり、近づいて見たり、見る方一人一人が思い思いに鑑賞してほしい
 

――何気ない風景も見方を変えると、巨大な生物のように見える。でも、それは、自分自身の心の中や、死生観にも繋がる話なんですね。
そしてそれは、怖いものなのか、それとも、優しく見守ってくれる何かなのか……。どのように見えるかは、その時の心模様によるものなのかもしれないですね。

 

有機的でありながら人工的である造花、その花弁を1枚1枚を貼り合わせる

――造花という素材で作られたこの作品、とてもカラフルで素敵だなと思いました!
でもよく見ると、ペタッとした平面のものを上から吊るしてそこに置いてあるのではなく、糸で釣ってあったり、かなりの労力が必要なんだろうな、と感じました。

 

▲作品後部の階段から
 
荒神さん:
作品作りに関しては、以前は一人で全部制作していたんですが、いまはチームで制作しています。
この作品を作ろうとした当初、反射した風景を作り出すために工業製品などを反射させてみたり、いろいろな素材で実験したんです。その結果、「有機的でありながらも人工的である」造花という素材にたどり着きました。
その「造花」を解体していくんですけど、そうすると1枚1枚の同じ花びらが対になるんですね。それを1枚1枚貼り合わせる形で風景を描く、という方法を取っています。

――こんなに大きな作品を作るのにあたって、そんなにも細かい作業をされているのですね……! そのあたりも見どころですね。
 

▲後ろから見ると、花びらが光に透けて、表から見た時とはまた違った表情を見せてくれる
 

「横」だったものを「縦」にしてみた

――個人としてのコロナ禍に生活の変化はありましたか?

荒神さん:
最初は、何にも変わらないんじゃないかと強がっていたんですよね。
でも段々感染者のグラフを見ていると、どんどん「死」というものが自分のテリトリーから近くなっていったように感じ、意識するようになりました。
境界線が自分に迫ってくる感覚があったんですね。

でも、その境界線があることで、「死」の側から自分たちを見るという視界を得たようもに思います。
改めて客観的に、私たちって何でこういう状態なんだっけ? というのを観察してみる。外側から自分たち自身を捉えて見るという視点を手に入れられるかもしれない、と。

――死の側から、生きている自分たちを捉える、ということなんですね。

荒神さん:
別の角度から世界を見る、自分たち自身を捉えてみるということは、作品作りと通じていると思います。

今回アマビエ・プロジェクト参加で制作した《reflectwo》は、縦方向に長い作品になっていますが、以前《reflectwo》を制作する際は横方向にして水平に見られるように作っていたんです。
 

▲もともと《reflectwo》は横に長い作品だった
 
それを、今回「縦」にしてみたんですが……
 

▲アマビエ・プロジェクトでは「横」になっていたものを「縦」にしてみた
 
私が当初、《reflectwo》を作るきっかけとなった風景を見たときに、首を横にしたから出会った見え方です。
別の角度から対象を見る、つまり改めて客観的に《reflectwo》と向き合ってみることで、「縦にする」という発想が生まれたのかも知れません。

「横だったものを、縦に見る。」
そうすると、それまでただの景色だったものが、巨大な生物のようにも、空高く伸びるバロック調の柱にも見える。
たったそれだけのことで、今、何を見ているのか、自分自身がどこに立っているのかさえ、わからなくなることがあるんですよね。
そうやって世界を見ることで、あらゆる知識や価値から解放されて、表面的には見えなかったもの自体の存在感や別の姿を垣間見ることができるんじゃないかと思うんです。

 

”空に浮かぶ巨大な顔”

――荒神さんに関して旬な話題としては、「巨大な顔が東京の空に浮かぶ」としてチームで企画・制作なさった《まさゆめ》プロジェクト※ が挙げられると思います。私もニュースを拝見したりSNSなどでも多くの方が話題にしていたようですが、ご本人としてはいかがでしたか?

※荒神さんが所属する現代アートチーム目[mé]として手掛けた、実在するただ一人の「顔」を東京の風景に浮かべるプロジェクト。「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」の企画の一環として行われた。
 

目[mé]《まさゆめ》, 2019-2021, Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13  撮影:金田幸三
 
荒神さん:
《まさゆめ》で作った巨大な顔が空に浮かぶという風景は私が中学生の時に夢で見た景色なんです。
街の上空に巨大な顔がお月様みたいに浮かんでいるというのは、ものすごい風景だなと思ったと同時にこの街は大人がこんなことをやっていいんだなと。こういうことをやっているということにものすごく勇気づけられたんです。
それから、20年近く経った現在、実際に巨大な顔が空に上がったのを見てみると、夢より圧倒的に“なぞ”なんですよね。自分でも言葉にするのに時間がかかるというか、今でも受け止めている最中です。

――見た人たちの感想を見ていると、ポジティブな反応もネガティブな反応も、あるように見受けました。

荒神さん:
様々な反応をいただきました。改めて、作品を展開することの意義や、その伝え方も含めて今何ができるか、ということをチームでたくさん話し合うことになりました。仲間がいることで、いろんな方法を模索したり次の段階への挑戦ができているんだということを実感しています。
個人的には、いろんな視点で作品を捉えたい思いで、作品をご覧になった方の記録写真などを見ていたのですが、その時々の撮影者の心境によっても驚くほど風景の印象が変化することを感じています。他者の視点になって、もう一度この作品を見ることを今まさに経験しています。
 

巨大岩の“聖地”、「角川武蔵野ミュージアム」は洞窟の中のミュージアム

――角川武蔵野ミュージアム美術部門ディレクターの神野真吾さんがこの場所について「アーティストに刺激を与える場所でありたい」とおっしゃっています。荒神さんはどう感じましたか?

荒神さん:
まずはこの“建築物”ですよね。初めて車でここに来た時、遠くから見たら巨大な“岩の御神体”のようなものが突如として街の中にポーンとあって。その中にミュージアムがある、つまり神聖な洞窟の中に入ったら美術館がある、というアプローチがとても面白いな、と。
しかも、美術館といえば、多くの方が「アート作品を見よう」と訪れる場だと思いますが、ここは(いろいろなジャンルの)「聖地」であったり、家族で遊びに来ていたり、神社もあったりして。
美術館という枠を超えて、「穏やかな街並み」と「巨大な岩の塊」という圧倒的な対比のように、異質なもの同士が平然と交差しているような……その中で作品と人々がどう出会っていくのか、も興味深いです。
「御神体が平然とある街」、その対比がそのままサクラタウンや美術館にも置き換えられるような、面白い場所だなと思います。
 

▲巨大な岩の御神体! ©角川武蔵野ミュージアム
 
荒神明香さんの作品《reflectwo》は角川武蔵野ミュージアム2Fエントランスホールにて展示中
チケット不要です。詳細は、角川武蔵野ミュージアム公式サイトでご確認を。

▲荒神明香さん作品《reflectwo》とともに、川島秀明さん作品《SHI》(8月末まで)も鑑賞できます
 

■施設詳細


【角川武蔵野ミュージアム】
〒359-0023
住所埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3
【アクセス】JR武蔵野線「東所沢駅」から徒歩10分
▶角川武蔵野ミュージアム・公式サイト https://kadcul.com/



記事の執筆者プロフィール

所沢なび編集部 ライター
2010年8月に所沢プロペ商店街に立地します商業施設「所沢サンプラザ」のメンバーにて設立しました。2011年3月の東日本大震災を機に、正確な情報発信の大切さを改めて実感し、本格的に活動を開始しました。

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