【図書喫茶カンタカ】開業ものがたり~3人のキーパーソンに聞いた、図書喫茶カンタカの誕生~


3人のキーパーソンに聞いた、図書喫茶カンタカの誕生


▲組み合わせたり、離したり、変形自在なテーブルたち
 
2020年12月、所沢市と東村山市の市境に特徴的な店が開業しました。開業前も所沢なびで告知記事を発信した「図書喫茶カンタカ」です。ありそうでなかった「図書喫茶」、そしてコンセプトは雑木林という珍しさもあり、「こんな場所を作ったのはどんな人なのだろう?」、私たちはカンタカさん開店前から疑問に思っていました。オープン後も何度かお店に伺うなかで「これはもう、オーナーさんにお話を聞くしかない!」と痛感。今回、オーナーさんだけでなく、図書喫茶カンタカの設計を手がけた07BEACHの近森穣さんとフード全般を監修するnegombo33店主の山田孝二さんにもインタビューを敢行。3人のキーパーソンはカンタカをどう作った???
 

開業から9ヶ月が経過……この居心地の良さはいったい

壁一面に「本」、ぬくもり・遊び心を感じる内装、エスニックフード……どれをとっても魅力的。
所沢駅から徒歩15分、所沢市街地から東村山へ向かう沿道に「図書喫茶カンタカ」はあります。
店内に入るとまず目に入るのは、特徴的な棚。木箱のような棚がたがいちがいに山形に積み重なっていて、商品が陳列されています。
 

▲エントランスホールには、今にも動き出しそうな躍動感ある棚
 

▲オーナー所蔵の本を壁一面に配架
 
木をふんだんに使用したぬくもりのある店内は、他にはない、その居心地の良さが人気を集め、開店当初からじわりじわりと噂が広がっています。
 
カウンターの側面には無数の小石が埋め込まれており、地元の柳瀬川を思わせる造りになっています。

▲さりげなく飾られた蟹や魚のオブジェ
 
2階は多目的スペースとなっていて、さまざまなイベント開催に活用できる他、親子連れがカンタカの本やフードをゆったりと楽しむ空間としても利用されています。
CMソング制作・歌唱なども手掛ける、深水郁(ふかみ あや)さん主催の「ロウドクとオンガク」は、7月から毎月開催中。テーマに沿った絵本の朗読と歌を楽しむこのイベント。この他にも、今では、いろいろなイベントの開催申し込みがあり、コミュニティ拠点として活用され始めています。

▲7月開催時の「ロウドクとオンガク」の様子
 

キーパーソン1 )所沢で生まれ育ったオーナー 肥沼位昌さん

カンタカの特徴のひとつが「図書喫茶」であること。
店内の壁一面に配された本、これはオーナーである肥沼さん所蔵のものでジャンルも様々。自然環境に関するものや、農業、まちづくり、武蔵野の歴史、平和や戦争などのジャンルの本があります。
「何かに興味を持つとまず本から入るんです」と話すオーナー肥沼位昌(こいぬま のりあき)さん。現在の年齢は50代、少し前まで平日は他の仕事をしていましたが、2021年9月からは仕事を辞めてカンタカに関わるようになりました。
 

▲図書喫茶カンタカオーナーの肥沼位昌さん
 
肥沼さんは、このカンタカがある秋津町に接する所沢市北秋津で生まれ育ちました。
 
肥沼さんの少年時代は日本が高度経済成⻑に沸く1960年代末から70年代、この頃には柳瀬川は汚れていて子どもたちが遊ぶ場所ではありませんでした。雑木林は手入れがなされず、下草が生い茂るところも増えてきていました。
ところが、戦前の肥沼さんのお父様が子どもの頃は、「雑木林は公園みたいなところで、川は泳げて天国のような遊び場だった」と楽しそうに話すのだそうです。その様子をお父様が描いたのが、カンタカの入り口に展示してある柳瀬川の一本橋で遊ぶ子どもたちです。
 

▲オーナーのお父様が描いた柳瀬川の風景はギフトボックスにも
 
肥沼さんは、子どもの頃に雑木林を歩きまわって遊んだ記憶やお父様から聞いた昔話等から、雑木林がふるさと所沢の大切な魂のようなものであると感じていました。
ところが、90年代に所沢のダイオキシン問題が起こります。所沢と近隣市町に、産業廃棄物の中間処理施設が集中し、主に都内から持ち込まれた産業廃棄物が所沢の焼却施設で燃やされ、黒煙が立ち上っていました。この頃、雑木林だった場所が、急に産業廃棄物の中間処理施設(産廃施設)となり、産業廃棄物が燃やされてダイオキシンが発生し、煙に含まれ周辺に拡散。産廃施設が集中する地域は「産廃銀座」と呼ばれるようになりました。
関越自動車道により交通の利便性が高まるとともに、バブル経済のもと相続税が高額になることで雑木林を手放す人も増えていったと言います。交通の利便性や税負担は、産業廃棄物施設が所沢市などに産業廃棄物施設が集中する背景にあったと考えられます。
 
肥沼さんは、ダイオキシン問題に心を痛めていました。「なぜ所沢が・・?ここから私の旅が始まったのです。」心にもやもやした、ままならないものを持ちながら、苦悶、葛藤するような意識を持つようになったそうです。
カンタカに置かれている多くの書籍は、その過程で収集されたものが多く含まれています。
 
そして、宮崎駿監督の「もののけ姫」を初めて観た時、肥沼さんにはそれが所沢のダイオキシン問題にしか見えず、アシタカが自分に重なったそうです。
アシタカが受けたタタリ神の呪い、森の木を伐採しながら立ち登るたたら場からの煙、単に善悪では割り切れないそれぞれの立場……アシタカの「森と人が争わずにすむ道はないのか」という問いは、肥沼さんが、ダイオキシン問題以来、ずっと持ち続けている問いとなっています。
 
自分の少年時代の記憶とも重なって、お父様の言っていた雑木林や川といった所沢の記憶を忘れず、肥沼さんは自らできることに取り組みたいと活動をはじめ、雑木林や柳瀬川の活動などに取り組むようになりました。
下富の農家の方たちが実践する雑木林の保全活動への参加、大きくなりすぎたクヌギ・コナラなどを伐採するためアーボリカルチャーの技術習得のための弟子入りをして、しまいにはチェンソーを8本持つほどまでに!また、農業技術を学ぶべくアグリイノベーション大学校へ通ったり、学問的な面から雑木林のあり方を考えたいと東京大学の夜間大学院にも通い、ヨーロッパの環境の先進的な取り組みなども見に行きました。
 

▲伐採作業の様子
 

「雑木林」とはどういうものなのでしょうか?

雑木林のルーツを辿りました。すると、川越藩主であった松平伊豆守信綱・柳沢吉保などが江戸の人口増加に伴う食糧難などに対応するため、ススキの野っ原、秣場(まぐさば)であったこの武蔵野台地を畑として農作物を生産できるようクヌギ・コナラなどの落葉広葉樹を植える新田開発が進められ、雑木林はその過程で作られたものであるということが分かりました。
所沢では、川越藩のほか、川崎平右衛門など幕府・旗本領でも、新田開発を進めます。その頃の新田開発は、農⺠の「家」と「畑」と「雑木林」という3点セットで行われ、短冊形の地割りを1戸として配分されました。こうしてもともと農業に向かなかった地域を開拓し、平地林として雑木林がつくられていきました。この雑木林の落ち葉からつくられる「落ち葉堆肥」を活用したり、伐採した木を薪にするなど、自然と人が共存するため経済的な関係も成り立つ循環型農法を続けてきたのです(武蔵野の落ち葉堆肥農法)。15~20年ほどで定期的に伐採され、新たな芽がでてくることを萌芽更新(ほうがこうしん)といいます。この落ち葉堆肥農法は、自然と人が相互に持続可能な関係を築いていくため一つのモデルとなるものでした。
 
しかし戦後、化学肥料や灯油・ガスが普及してくると、この関係性が崩れ、雑木林は活用されることが減っていきます。萌芽更新により若く保たれていたクヌギやコナラは伐採されずに大径木化(たいけいぼくか)し、下草も刈られることなく手入れのなされないところが増えていきます。さらには、ダイオキシン問題につながってしまいました。昔のままのあり方では雑木林などを残すことは難しく、新たな視点、意味をもったものとして再構築しなくてはなりません。
 

トトロの生まれた所沢

所沢はトトロの生まれた場所であり、「となりのトトロ」関係の本やおもちゃなども、カンタカにはあります。宮崎駿監修スタジオジブリ編『トトロの生まれたところ』では、かみのやまや八国山が紹介されるとともに、狭山丘陵の美しい景観、草木や花が描かれています。
肥沼さんは、自ら育った地域、時代がトトロの舞台と重なること、特に、トトロのバス停のモデルとなった場所が身近なところにあったことを知り、今まで所沢のみどりに関わり続けてきたことが、自分の天命であると感じるようになりました。
 
雑木林は好きで、こだわりもあったけれども、当たり前なものだと思っていた。しかし「となりのトトロ」を通じて、光り輝くかけがえのない美しさをもっていたことに、改めて気づかされたそうです。特に、雑木林が紅葉する頃の秋の美しさ、多様な色彩の中に包まれる時期・空間が好きだそうですが、雑木林、柳瀬川はじめ地域の大切なものをデザインやアートに落とし込み、できれば子どもたちや未来へのメッセージに、そんな展望を描けないかとも考えているそうです。
 
大切でかけがえのない雑木林や柳瀬川、その意味を問いかけてくれたアシタカ、その輝く美しさへの気づきを与えてくれたトトロ。カンタカという名前は「もののけ姫」のアシタカ、となりのトトロのカンタを組み合わせ、肥沼さんがつくった造語だそうです。
 
自分の天命として、自然と人の関係を見直し、新たな関係やライフスタイルを提案していきたい。そのメッセージの発信拠点として生まれた「図書喫茶カンタカ」。多様性を大切にする持続可能なまちは、肥沼さんの言葉では「雑木林都市」ということになるのだそうです。ここカンタカでいろいろな提案をし、つながりができたら。また、みどりの保全、創出、川の保全など、ただ昔のものを単純に残していくというわけではなく、今の時代に必要とされ、望ましいかたちで発信していきたいというメッセージが詰まったお店なのです。
 

キーパーソン2)フード監修 negombo33 山田孝二店主


▲西所沢にあるnegombo33にて

オーナーの想いに共感

ここカンタカで提供されるフードは、所沢のカレーの名店「negombo33」の山田さんが監修しています。
こだわりのスパイスカレーにバインミーなどエスニックなものや、自家焙煎のコーヒーがカンタカのメニューに並びます。

肥沼さんとの出会いは、2019年の野老澤街造商店(ところざわまちづくりしょうてん:まちぞう)の新年会。まちぞうと深い関わりがあった二人が、偶然出会い、その時は挨拶しただけですが、その後、肥沼さんの構想を聞いているうちに、山田さんの「所沢で開業して10年。お世話になった所沢に何か貢献できれば」という想いとも重なっていきました。そして、打ち合わせを重ねて、何か自分なりにお手伝いができるのではと意気投合して、今回「図書喫茶カンタカ」を創り上げるメンバーの一人となったそうです。その後2年は、情報収集と実験を、時には一緒に、時に各々重ね、図書喫茶カンタカの構想を日々練っていきました。

ここカンタカでしか味わえないメニューを

図書喫茶カンタカでの提供メニューを考える際に大事にしたことは、「家族に食べさせたい食事」「外食でも安心なものを」。
そして生まれたメニューは、図書喫茶カンタカオリジナルです。オープン以来、山田さん自身何度も店舗へ赴き、メニューの監修・改良を続けています。
 
「エビカレー」は、ごろっとしたエビとスパイスがクセになります。チキンカレーやビーフカレーとの二種盛りもできます。

▲「ビーフ」と「エビ」の二種盛り。スパイスとコクが合間って忘れられない味
 
カンタカのオープンと共に誕生したドリップバッグコーヒー「落ち葉ブレンド」。パッケージにある落ち葉は、肥沼さんが描いたもの。1パックにつき5円が、雑木林の保全活動を支援するための活動への寄付金となります。

▲ミルクをたっぷり入れてアイスコーヒーでも美味しい
 

▲焼きサバが入ったバインミーと落ち葉ブレンドのアイスコーヒー
 
バターが中にたっぷりのプレッツェルやクロワッサンなどのパンも種類いろいろ。全てテイクアウトが可能で、容器は、なるべく脱プラスチック製のものを使用するよう心がけているそうです。朝食用に定期的に購入される方もいるのだとか。

▲取材中、ちょうど焼きたてのパンに遭遇〜
 
自分の感覚を信じて、「この人いいな!」と思える人と仕事をしていきたい、という山田さん。肥沼さんとの出会いに加えて、カンタカのデザイン設計に携わった近森さんに声をかけたのもその理由からでした。

キーパーソン3)07BEACH 建築家 近森穣さん


▲沖縄在住の近森さんには、リモートでお話を伺いました

出会いは、レストラン経営学校

建築家07BEACHの近森穣さんは、negombo33の山田さんとはかれこれ10数年来の仲。出会いは、都内のスクーリングパッドという、レストラン経営を学ぶ学校でした。実は、西所沢にある「山田珈琲豆焙煎所」の内装を手がけたのも近森さんで、山田さんから「もう一度一緒に仕事がしたい」と声をかけられ、今回の「図書喫茶カンタカ」のデザイン設計を担当することとなったのです。
 

▲大人の好奇心をくすぐる壁一面の本はジャンルも豊富

着想に当たって歩いた雑木林や柳瀬川

デザインをするにあたっては、オーナーの肥沼さんから話を聞いたり、雑木林や柳瀬川をたくさん歩き回った近森さん。オーナーのパーソナリティや大事にしている価値観を感じ取りデザインに反映させたと言います。
デザイナーとしては、新しいものを創りたいという想いは常にあり、しかし奇抜過ぎても浮いてしまう……という葛藤の中、オーナー肥沼さんからの積極的な提案もあり、壁一面を本棚にしたり、丸みを帯びたテーブルを雑然と配置するなど枠に収まらないユニークな店内を作り出しました。まさに、「多様性の中の心地よさ」が表現された店内。「雑然とした中に、それぞれの居心地の良さを見つけられる空間に」。
「伸びしろのあるお店だと思うので、広い層に響く、居心地よく何度も来たくなる場所になってくれたら」、と近森さん。

▲さまざまな形の落ち葉が照らされる照明

多様性の中の心地よさを大事にしたい

そんなカンタカのフードやドリンクをお供に、この木のぬくもりあふれる空間で、来店者は思い思いの時間を過ごします。本棚から読みたい本を選び一人時間を過ごすママさん、パソコンを持参してレポートを書く若者、近所のお友達とおしゃべりをするシニア女性、ランチを取りつつ会話する会社員男性……。カンタカに訪れる人はさまざまです。
多様性の中の心地よさを大事にしたい。雑木林をコンセプトにした「図書喫茶カンタカ」。開業に至るストーリーを知って訪れると、また面白いかもしれません。

【店舗情報】

図書喫茶カンタカ
住所:東京都東村山市秋津町3-30-6
アクセス:所沢駅から徒歩15分
広々とした駐車場も完備
営業時間:午前9時から午後8時
客席数 最大74席(1階喫茶席)
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間・客席数が記載と異なる場合がございます。
▶instagram:図書喫茶カンタカ
▶Twitter:図書喫茶カンタカ
▶Facebook:図書喫茶カンタカ


この記事を書いた人

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ハル かおり Kaori Hurrell

道産子&元地銀広報ライター。家族4人暮らしの所沢市民です。地域のイベントや情報を共有し、所沢を盛り上げていけたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

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