角川武蔵野ミュージアム「われわれが何をしたのか」トークツアー参加レポ|池上彰×田口美和と考える現代アート


現代アートは「難しい」「何を見ればいいのかわからない」と感じることがあります。ですが、作品の背景にある社会や歴史を知ると、見え方が大きく変わることもあります。
 
角川武蔵野ミュージアム4階 エディットアートギャラリーでは、2026年3月28日(土)~7月6日(月)まで、「池上彰と考える現代アート Vol.1 Empowered by Taguchi Art Collection『われわれが何をしたのか』」を開催中です。
 
今回、その関連企画として5月18日に開催された池上彰館長と田口美和さん(タグチアートコレクション共同代表)によるトークツアーに参加してきました。テーマは、南アフリカ出身アーティストによる『センゼニナ/Senzenina(われわれが何をしたのか)』(2018年)。アートと社会、それぞれの視点から作品を読み解いていく内容でした。
 

 
本記事では、トークツアーで語られた内容を振り返りながら、印象に残った話や筆者が感じたこともあわせてお伝えしていきます。展示をこれから見る人はもちろん、すでに鑑賞した人にとっても、新たな発見や視点につながる内容になればうれしく思います。

『センゼニナ』という作品について

『センゼニナ』は、2012年8月に南アフリカ北西部マリカナのプラチナ鉱山で発生した「マリカナ虐殺事件」をもとに制作された作品です。
 

 
この事件では、賃上げを求めてストライキを行っていた鉱山労働者に対し、警察が発砲。34人が死亡しました。アパルトヘイト(1948年から1990年代初頭まで南アフリカで行われていた人種隔離政策)終結後の南アフリカにおいて、最も深刻な国家暴力事件の一つとされています。
 
『センゼニナ』は、事件当時の映像や裁判記録に残された写真をもとに、鉱山労働者たちの身体の姿勢を再構成する形で制作されたそうです。
 
作品の背景には、アパルトヘイト廃止後も過酷な労働環境や経済構造が大きく変わらなかったという現実があります。つまりこの作品は、制度が変わったあともなお残り続けた格差や暴力を表現したものだと言えるでしょう。

田口さんが語るアートの意義


 
田口さんは、アートには鑑賞者が想像する余地を残しているという特徴があると語っていました。現地の様子を生々しく切り取った写真や映像とは異なり、見る人それぞれが考えを巡らせることのできる点も、アートの大きな役割なのだと思います。
 
実際、今回の題材となっている『センゼニナ』には、顔や手のひらがありません。そのため、「この人たちはどんな表情をしているのだろう」「本当は手に何か持っていたのではないか」と、自然に想像が広がっていきます。
 

 
また、田口さんは「鑑賞者と作品の距離感」についても触れていました。どれだけ鑑賞者との距離を縮められるか。それこそが、アートの大きな役割なのだといいます。
 
もしこれが現地の写真や文章だけだった場合、遠い国で起きた過去の出来事として、どこか他人事のように感じてしまうかもしれません。
 
しかし、作品の人物たちは、私たちと変わらないジャンパーを着て、Nikeのスニーカーを履いています。そうした身近な要素があることで、遠い存在だったはずの出来事が急に現実味を帯びて見えてきます。
 
そう考えると、『センゼニナ』は田口さんの語っていた「鑑賞者との距離を縮める」というアートの役割を強く体現した作品だったのではないでしょうか。

池上さんと参加者の質疑応答で印象に残っているもの


 
トークセッション後の質疑応答コーナーでは、ある男の子が「なぜこの人たちは全員長ズボンなのか。一人くらい半ズボンの人がいてもいいのではないか」と質問していました。服装についてはツアー内でも触れられていましたが、「半ズボンの人がいてもいいのでは?」というところまで踏み込んだ視点は、この子ならではの着眼点だったように感じます。
 
これに対し池上さんは、「この人たちは地下深くでプラチナの採掘作業をしていたため、半ズボンでは危険です。南アフリカというと暑いイメージがあるかもしれませんが、地下深くはそうとも限りません。半ズボンで生活できるというのは、平和だからこそなんです」と説明していました。
 
一つの素朴な疑問から、作品の背景や労働環境、さらには「平和とは何か」というテーマにまで話が広がっていったのが印象的でした。こうした対話が生まれるのも、アートの持つ鑑賞者が想像する余地を残しているという特徴ゆえなのだと思います。

まとめ

今回のトークツアーに参加して、一つの作品をさまざまな角度からじっくり掘り下げていくという、今ではなかなか得がたい体験ができました。
 
YouTubeやXなど、日々大量の情報やエンターテインメントが流れてくる時代だからこそ、その場で立ち止まり、自分なりに想像を巡らせながら作品と向き合う時間はとても新鮮に感じます。
 
今回あらためて、アートには「考えるきっかけ」を与える力があるのだと実感しました。展示を訪れた際は、ぜひ自分なりに想像を巡らせながら鑑賞してみてください。作品がまた違った形で見えてくるかもしれません。


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イチカワ ichikawa

埼玉県狭山市在住。学生時代によく訪れていた思い出の街・所沢を、今はライターとして取材しています。所沢なびでは、地域のイベントや新しいお店の魅力を温かくお届けしていきます!

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