【リポート】吾妻教養講座〜地域一受けたい授業〜音楽のススメ今回のテーマは…「北欧クラシック〜寒い国の作曲家の熱き想い」



ちょっとしたことで、「これはもう…だめかも…」なんてマイナス思考になりがちです。そんな時に思い出すのが所沢市在住の指揮者、米崎栄和(よねざきしげかず)さん。以前は、とても指揮者に転職なんてできそうもない超伝導の研究をしていたという異色の経歴の持ち主です。今年も公民館で恒例の「吾妻教養講座〜地域一受けたい授業〜音楽のススメ」が開催されました。音楽の楽しみ方と、「だめかもしれない」なんて言って打ちひしがれてしまう前に何かできるかもしれないヒントもゲット!元気をもらうことができました。

2022年7月13日 カケミヅ

公民館で開催されている、市民のための音楽の楽しみ方講座

2022年7月13日、吾妻まちづくりセンターで「吾妻教養講座〜地域一受けたい授業〜音楽のススメ」が開催されました。今回のお題は「北欧クラシック〜寒い国の作曲家の熱き想い」でした。

▲吾妻まちづくりセンター ホール前
米崎さんの講座の受講は3回目です。初めて受けた時は資料の楽譜と、米崎さんの指揮者姿の写真付きのプロフィールに圧倒され、場違いなところに来てしまったのでは…と戸惑いました。

でも、公民館で行われている講座は市民が楽しめるように企画されているもの。毎回楽しく学んで、タイミングと空気を読んでは(笑)知識を披露してみたりして…。開催を心待ちにしています。

まずは米崎さんについてご紹介します。

米崎栄和(よねざきしげかず)さんのこと

カラヤンに憧れていた幼少時代〜理系の道に進むまで


▲所沢市在住の指揮者、米崎栄和(よねざきしげかず)さん

米崎さんは1968年生まれ。生まれは大阪で、埼玉に越してきたのは5歳の時。現在は所沢にお住まいです。
小学校1年生の時にピアノを習うも、レッスンのあまりの厳しさに嫌いになってしまったそうです。
 
その後テレビでカラヤンの指揮を見て魅了され、“カラキチ”に。家にあったワインのコルク栓に穴を開けて菜箸をはめ込み、読めないのに楽譜を買ってもらって、まずは指揮者としての形から入ったのだそうですよ。
 
高校生の時に吹奏楽部に入り、先生から「音楽の道に進まないか?」と言われてすっかりその気になるも、親御さんに大反対され、一年浪人して東京理科大学に進みました。

そんな米崎さんの、指揮者への第一歩とは…?


大学進学後、ある音楽大学の先生に「指揮者になるにはどうすればいいですか?」と、電話で聞いたのだそうです!
 
音楽大学に通ってもいない若者に対してその先生の対応はまさにけんもほろろといったところだったのですが、その電話から知った指揮者の方の情報を元にレッスンを受けるための糸口を見出したんですって。
 
「まず一歩踏み出して、糸口を見つける!そして、執念深く糸を手繰り寄せる。」とメモしました。文章にすると短いのですが、踏み出す勇気、諦めず続ける根気、…いろいろな要素が含まれていそうですね…。
 
その後、大学に通いながら指揮者としてのレッスンを受け、大学院では超伝導の研究を、社会に出てからは貴金属材料の研究をしていた米崎さん、30歳になってキッパリと仕事を辞め、東京音楽大学の指揮科コースに入り直します。
コンクールには年齢制限があり、初めて受けることができたのが2003年、若手指揮者の登竜門であるブザンソン国際指揮者コンクール。初挑戦で最高位(グランプリなし)に選ばれる快挙を成し遂げました。
 
毎回このお話を聞くのが楽しみなのですが、今回気になったのが、この講座で使用される過去映像について、「過去の自分の姿にはうんざりなんですけど…。」と言ったところ。
いつも「遠回りして夢を叶えた」ところに注目していましたが、それって、「スタートにたどり着いた」だけのこと。夢を叶えてからのいろいろなエピソードをいつか聞くこともできるのではないかと、期待しています。

北欧クラシックをテーマに作曲者について、「ソナタ形式」のこと、など学びました

「今回北欧を取り上げたのは、暑いだろうから少しでも涼しく感じられればと思ったんですけどね。」と苦笑いの米崎さん。前夜は記録的な大雨となり、当日も雨でいつもよりは涼しく感じる日でした。

▲当日の講座の様子
今回取り上げられたのはフィンランドの作曲家ジャン・シベリウス(1865〜1957)。
幼少のシベリウスは医師だった父親を腸チフスで亡くします。10歳でバイオリンを始めバイオリニストを目指すも、諦めて作曲家の道へ…。など、その生涯を学びました。
 
まず、シベリウスの音楽に馴染んでもらうために、カレリア組曲のフィナーレ(行進曲風に)の演奏を鑑賞しました。
 
そして、本日のメインプログラムである交響曲第2番、いわゆるシベ2です。
まずは、シベ2の楽譜や実際の演奏を見ながらオーケストラの楽器のことやソナタ形式などについて教わりました。
ソナタ形式が提示部(第1テーマ)・提示部(第2テーマ)・展開部・再現(第1テーマ)再現(題2テーマ)・コーダという構成であることを。
 
テーマを把握し、物語を楽しむ。そして長いフィナーレを味わいましょう、…ということで最後はシベ2の後半第3楽章と第4楽章のライブDVDを鑑賞しました。
 
時々、米崎さんの解説が小さく、短く入ります。「第1テーマです。」「第2テーマです。」「この部分…シベリウスは、本当にバイオリニストになりたかったんだなあって思います。」なんて…。
形式通り、展開され、再現され、最後のコーダで盛り上がりに盛り上がって曲は終わり、会場からは画面と米崎さんに拍手が起きました。

 
今回も楽しい授業でした。お話も面白かったし、音楽を聴くことに純粋に没頭できたこともいい時間でした。

音楽が大切なのだと確信しているんです


あとは米崎さんの笑顔の写真を撮影したらおしまい、と思っていたら、一人の受講生が先生に話しかけました。「本当に楽しかったです。こういう講座が、もっとあればいいのに…。」と。
その方は長年エンジニアとして働いていた事、今は音楽の活動もしていること。働いていた時、後進の育成をしていく中で、その方が感じたのは「音楽が大切だ」ということ。
 
米崎さんが、「(エンジニアという職種は)何よりも技術を持って効率よくすることがまず大事と思われがちですね。」と言うと…「僕の意見では違うんですよ。音楽が大切なんです。」と断言。
そのお話が面白くて面白くて、聞くことができてラッキーでした。
 
楽器を時間をかけて練習することの大切さなどの話になり、「やっぱりねえ、ナマが大切ですよね。」「ナマで聴かないと、ねえ。」と、2人とも意気投合されていました。
音楽の専門知識はありませんが、コロナ禍になって、「本当に会う事」「本物を見ること」の大切さが話題になることが多く、分かるような気がします。
 
コロナ禍になって、何が「不要不急」なのかと考えさせられたこともありました。一見「不要不急」に見えたものの大切さもまた考えさせられました。そんなことが少し懐かしくなってきた今日この頃です。
 
普段の生活ではなかなか知ることができないオーケストラの楽しみ方を学べる市民向けの教養講座。次回の開催に足を運ばれてはいかがでしょうか?

イベント情報

吾妻まちづくりセンター主催
吾妻教養講座〜地域一受けたい授業〜音楽のススメ
北欧クラシック〜寒い国の作曲家の熱き想い

日時:7月21日(水)10時〜12時
場所:吾妻まちづくりセンター(吾妻公民館)・ホール
   所沢市大字久米2229-1
講師:米崎 栄和さん


米崎 栄和(よねざき しげかず)さんの プロフィール

1968年大阪府吹田市生まれ。東京理科大学大学院修了後就職するも、音楽への夢断ちがたく30歳で退職。2001年4月、東京音楽大学指揮科研究生となり、2003年3月に修了。これまでに指揮を紙谷一衛、汐澤安彦、ヴェリサー・ゲンチェフ、広上淳一、湯浅勇治の各氏に、和声を遠藤雅夫、有馬礼子の各氏に、スコアリーディングを久田典子氏に、ピアノを植木純氏に師事。

1999年7月、ハンガリー国際ラバフェスティバルに参加。 その後、国内各地のオーケストラやオペラで指揮・副指揮を務め研鑚を積む。2003年9月、若手指揮者の登竜門である第48回ブザンソン国際指揮者コンクールにてコンクール初挑戦で最高位(グランプリなし)に選ばれる快挙を成し遂げ、一躍注目を浴びる。2004年7月、ウィーン・フィル コンサートマスターのライナー・キュッヒル氏とベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を協演。2006年9月より1年間、スロヴァキア国立歌劇場で指揮研究員として研鑽を積む。2008年4月、スロヴァック・シンフォニエッタ・ジリナ(スロヴァキア・ジリナ国立室内管弦楽団)の定期公演に招かれ、そのベートーヴェン交響曲第7番はスタンディングオベーションの絶賛を浴びた。

これまでにリヨン国立管弦楽団、スロヴァック・シンフォニエッタ・ジリナ、東京フィル、新日本フィル、東京シティフィル、東京交響楽団、名古屋フィル、九州交響楽団、日本センチュリー交響楽団、仙台フィル、群馬交響楽団等に客演。また、全国各地の市民オーケストラや大学オーケストラとも共演し数々の名演を繰り広げている。

現在、国内外のオーケストラの客演指揮者として活躍中。


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